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現代曲をCD録音すること
カプースチンのピアノ作品全曲録音と銘打って始めたCD録音のプロジェクトですが、やってみていろいろ感じることがあるものです。はっきり言えば「なかなか大変だな~」という感想になるわけですが、なぜそうなのかが解ってきました。

実は私自身、これまでカプースチンをいわゆる「現代曲」とは認識していなかったし、多くのカプースチンファンもそうは思っていなかったと思います。音楽はだいたいノリが良く、明るい曲想も多いし、ポピュラーミュージックのようなキャッチーな部分もあります。そしてもちろんジャズ的な要素も多いわけですが、それはカプースチンの音楽ではもう有名な話でしょう。そして多くの人が言うようにカプースチンは「難解」で「技巧的」という要素も確かにありますが、CD録音の準備をしていると、これは何よりも「正真正銘の現代曲であるな」というのが私の最近感じている率直な印象です。難解な現代曲を、しかも音源の存在しない新曲を高いクオリティで準備するというのはそれなりに大変なものを感じます。

考えてみれば、これまでセリー音楽や現代曲をいろいろ弾いてはきましたが、メシアンにしてもシェーンベルクにしても、あるいはリゲティを弾くにしても何らかの音源を参考にしてさらっていたことに気がつきました。なので、まったくのゼロから譜読みをし、自分で解釈を施し、新しい未知の音楽に取り組む機会というのはあまり多くはなかったかもしれません。例えば邦人作曲家の新作を初演で披露した経験などはありますが、カプースチンに匹敵するような内容を持った新しい作品を次々に仕上げるという経験はなかったと思います。また、CDに残すというのは大きな責任もありますので、1曲でもちゃんと仕上げるのは大変だなと私も感じているところです。

私自身は、いわゆる現代曲に関してそれほど広いレパートリーを誇るわけではありませんが、いくつかの他の近現代の作曲家の難解な作品に取り組んできたことは大いに役に立っていると感じます。やはり、ひととおり同時代の作曲家に至るまでのいろいろな作品に通じていることは大事なのではないでしょうか。音楽的経験が広ければ広いほど、カプースチンの曲を理解できる可能性も高くなると思います。それはジャンルを問いません。現代までのあらゆる音楽についての広い経験が役に立つと思います。なので、もちろん私が録音した後にも、また全然違う解釈でカプースチンの新しい作品を録音する人が出てくることが今から予想されますが、それらは将来とても貴重なアーカイブになっていくことでしょう。カプースチン作品は20曲のピアノ・ソナタに限らず、どの曲をとってもそれぞれ内容が深いもので、ただ楽譜が読めるというだけではとても弾けるものではないということがだんだんわかってきました。ジャズの要素を知るだけでもダメ、音楽的なセンスが良いだけでもダメ、総合的な音楽力というか、感性と知性の両方から深くアプローチしていかないと曲がそう簡単には仕上がらないというのがよくわかってきました。

話は全然変わりますが、この3月末でリサイタルの全国ツアーを終えたばかりの辻井伸行君は、今回弾いたカプースチンの『8つの演奏会用エチュード』全曲を含むリサイタル・プログラムを8月のドイツでも演奏するということが先ほどわかりました。これもなかなか大きなニュースですね!まだ生演奏でこのエチュードをリサイタルで弾く人は少ないのですから。

| カプースチン |
| 11:12 AM | comments (x) | trackback (x) |

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新・ピアノ弾きの休憩室 /ピアニスト川上昌裕のブログ。音楽の話題、ピアノ学習へのヒント、日常生活の舞台裏を気まぐれに綴る。