
[2007年2月16日]
「親愛なるマサヒロ!
Op.128にはまだタイトルは存在しません。ひょっとしてあなたが何か良いのを考えてくれるかな?
ところでなぜOp.123がそんなにポピュラーなのですか?私はこの曲は誰も知らないと思いますけど。それとも「ポピュラリティ」とは「わかり易さ」「近づきやすさ」ということ?
ソナタ第11番は良い演奏をぜひ聴いてみたいな。おそらくあなたも○○の○○の録音を聴いたでしょ?あれはひどいな。
先日あなたの録音した『ユモレスク』を分析してみました。あなたの演奏はクラシック寄りの様式で、リズムはけっこう自由、そしてテンポは一定のテンポ(二分音符=104)ではなく、87から大体110くらいの間で揺れていました。私もそんなふうに弾くべきだろうか? でも私にはそれはとても型破りなのでうまくいかないだろう。でも最初から最後まで104のテンポで通すのはとてつもなく難しいね。
ごきげんよう。
N. Kapustin」
上のカプースチンからのメールは私の質問を受けての返信でした。
私は一つ前のメールで、自分が次のCDに録音する予定の曲リストを書いてカプースチンの意見をあらためて伺っています。この時点ではすでに演奏していた『ピアノソナタ第12番』や『ケニー・ドーハムの“ブルーボッサ“によるパラフレーズ Op.123』を録音するつもりだったのです。そしてCDに収録予定の他の作品、例えば新らしい小品Op.128には「まだタイトルがないのですか?」とか、「ソナタ第11番はちょっと自信があります」とか、そんなことをいろいろ書いたメールへの返信でした。
多くの人の耳に馴染みのあるジャズの「ブルーボッサ」を元にしたパラフレーズについて、日本ではこのメロディはけっこうポピュラーになっていると私は感じていたのですが、カプースチンには多くあるジャズのナンバーの一つくらいにしか思っていないようでした。
また自分の作品の他のピアニストによる演奏や録音に関しては、けっこうご自身のはっきりとした意見を持っておられて、特に親しい人にはそれについての感想を歯に衣着せず本音を仰るので、演奏家である私に向かってもはっきり「気に入った」とか「気に入らない」とか仰るのでドキドキしました。上のメールもさすがに伏字にしておきましたが、そこにはある国のあるピアニスト(の名前)がはっきり書かれています。
あとは難易度の高い『ユモレスク Op.75』について、ご自身もちょうどこの作品をCD録音のために練習中とのことで、当時はまだこの作品の録音音源は私のCDしか存在しなかったのですが、その演奏を真剣に聴いてテンポの分析を詳細にされていて、大真面目に上のようなことを書いてこられるので、まあそれも怖いと言えば怖かったです(笑)。この当時は、私はビートやテンポに関してもっと大らかに考えていたので、ある種カプースチンが求めていたビート感覚には到達していなかったと思います。そんなことをカプースチン本人がやんわりと教えてくれたりしていたわけです。有難いことですね。