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ピアニストとして成功するには~フランク. デュプレーの場合~


例えば、30代前半という若さでカプースチンのピアノ協奏曲のCD録音をついにコンプリートしたフランク・デュプレーですが、彼の場合はどんな幼少期~青年期を送ってきたのか。6曲の協奏曲だけではなくこれまでにCD5枚分の分量のカプースチン作品(しかもピアノソロ作品を含まない!)を、それだけ短期間で録音を仕上げてしまう、というのは並大抵の能力と実行力の持ち主ではないことは明らかだと思います。時代とともに音楽環境が変わってきているので、今では音楽の勉強を広範囲に効率良く勉強することが可能な時代ではあります。とは言え、例えばデュプレーの場合はどのようにこれだけ早くカプースチンの大作を含む数多くの作品を自分のものにできたのか。もちろん彼の能力や適性に関わることも多いでしょうが、彼の生い立ちや教育環境や彼の音楽に対するスタンスなどについて知っておくのは良いかもしれません。
11月初旬にカプースチンのボックスCD(4枚組)がリリースされる前に、予習の意味も兼ねてこのピアニストについて書いておきたいと思いました。

フランク・デュプレーはドイツのラシュタット(人口=5万人くらい)に生まれますが、大きな都市のカールスルーエがすぐ近い場所に位置していたのは恵まれていたかもしれません。彼は3歳の時にオーケストラのコンサートへ行って音楽に目覚めて、自分の伯父(叔父)が打楽器奏者だったこともあってまずはパーカッションに興味を持ちました。家にあるものをバケツでも箱でも何でも良いから叩き始めた(笑)、と同時にすぐにパーカッションを習い始めたということです。そして5歳からはピアノも習い始めますが、打楽器の先生が素晴らしい教師だったらしく6歳の時にはもう世界中のいろんな文化や多様な音楽、そしてひととおりの打楽器も(ティンパニ、ドラムセット、シロフォン、ビブラフォン…その他ジャズやラテン音楽、ロックも)勉強させてもらえたということです。
それはピアノの勉強においても同じで、バッハ、チェルニーから始まりフランスもの、ロシアもの、現代曲…と、ありとあらゆるジャンルの音楽を勉強した。そして彼の場合は早いうちからジャズや即興演奏にも興味を持っていたということです。そして10歳で音楽理論と作曲を習い始め、10代最初の頃にはカールスルーエ音楽大学に入学を許可されて、12歳の時には大学で指揮も専攻することを認められる、という神童ぶりです。

若くして才能を花開かせて活躍する若手たちには、確かに共通することもあるように思います。まず彼らは幼少時から伸び伸びとした環境で音楽をやらせてもらっている、というか、自分の興味の赴くままに楽器を触ったり、習うことができる環境を見つけたり、家族や親戚などを含む音楽環境や周りの人たちの音楽への理解、そしてまた小さい頃に(中学か高校くらいまでに)良い師との出会いなども必ずあるようです。

デュプレーが早い成功をものにできた理由の一つに、やはり彼のピアノの先生の存在があります。話を聞くにつれ、彼が小学生の頃に出会ったゾントラウト・シュパイデル先生(その後、大学まで彼の師として大きな影響を与えた先生です)の存在が大きく、それについては彼自身が感謝とともにいつも語っていることですが、作曲を勧めてくれたのもシュパイデル先生、指揮の勉強をすることを勧めてくれたのも彼女だということです。「ハイドンの協奏曲のカデンツァは自分で書いてみなさい」などということを言われてやっていたし、指揮についても早くからチャンスを与えられ、13歳か14歳の時にはユースオーケストラでブラームスの『レクイエム』を振ったということで、それがすごく勉強になったということです。10代の中頃までにそれだけの経験をしています。

彼はその時期は同時にギムナジウム(日本の中学~高校にあたります)にも通っていたようですが、カプースチンの音楽との出会いはその学校での音楽の先生がきっかけになったようです。その先生自身が作曲家でピアニスト、そしてジャズも演奏できる人だった(そんな先生がギムナジウムにいるということ自体がすごいのですが、そういう人にもちゃんと出会うのです)ということですが、その先生から教えてもらってネット上のカプースチンが弾いている動画を見たのが最初ということです。でもその時はそれだけだったようで、その後は彼はそれとは違う方向に向かって勉強や活動をしていくのですが、時間が経って再びカプースチンに気持ちが向いて戻って来た時には、すでに彼自身の音楽の基礎力や知識・経験・スキルはかなり高い段階まで磨き上げられていたというわけです。しかも、その頃までに彼は国内外のコンクールですでに50を超える賞も獲っていると言います。そしてその後、良い演奏仲間たちとの出会いなども重なり、こんなにも早くカプースチンの演奏史における実績を上げたというわけです。

彼の場合は、もちろん才能もあったでしょうが、本当に自分自身が好きなものを追いかけてきた、いつでも伸び伸びとした環境で、周りの人たちの理解や方向づけ、そして理想的と言えるような教育環境、良い人たちに恵まれて自分のやりたいことを楽しくさせてもらうことができた、ということが言えるように思います。

実際の演奏活動でも目下活躍中のデュプレーですが、来たる10月30日にはなんとシュトゥットガルトの大ホールでカプースチンの『ピアノ協奏曲第3番』が演奏されます。これがこの曲のライブ演奏としては「ヨーロッパ初演」となるので大々的に宣伝もしているようですが、私たちが2016年11月6日に東京音楽大学のA館100年記念ホールで世界初演をして以降、この曲の初めての公開演奏になると思います。考えてみればあれからちょうど10年後になりますね。カプースチン受容史としては歴史的なことかもしれません。


P.S.
先日まで私が格闘していたこのデュプレーのCDボックスセット(4枚組)の曲目解説も無事に(?)入稿できました。直接関係ないとは思うものの、解説執筆を書くにあたりデュプレーがこの数年の間に出演していたカプースチンのレクチャーコンサートやインタビューなどを3~4本観たので、解説の中で今回まったく触れなかったようなことはブログのほうに生かしていきたいと思っています。このCDのリリースを機会に、日本でも本当にもっとカプースチンの音楽を「いいな」と思って聴く人が増えると嬉しいです。CDを聴く人が少なくなっていく時代ではあるのでしょうが、このボックスは内容から言って本当にお買い得だと思います(特にカプースチンのCDをまだあまり持っていない人にとっては!)。ぜひ多くの人に買っていただいて保存版にしてほしいです。

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