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レパートリーは変遷する

あっという間に1月が終わってしまうところでした。
ブログはいったん離れると全然手つかずになってしまい、またずいぶん空いてしまいました。毎日書けると思う時もあったりするのですが、いったん手が止まってしまうとそのまま忙しい日々に埋没してしまいました。月が替わる前になんとか滑り込みで一本…。

最近は世界的な寒波のニュースが多いですが、こんな時は移動の多い演奏家たちは大変ですよね。今の時期は国内でも無事に行って帰って来れるかどうか、ということばかり心配になってしまうこともあります。今月は私自身も北陸方面行きを1日だけ泣く泣く断念してしまいました。それでも先週の年の恒例のピアノ発表会は無事に行なうことができました。それだけでも感謝です。
ここ十数年くらい、発表会は1月中に行なう流れで定着してきたのですが、この時期、我が大学(+高校)では実技試験や入学試験がある時期です。そのためレッスンを普通に行うだけでも時間のやり繰りに苦労する時期でもあるのです。これを毎年どうにかならないものかと考えているのですが…。

さて、話は変わってクラシックで演奏される曲やレパートリーのことについてです。ピアノの試験やコンクールではもう定番になっていると言って良い曲がかなりの分量ありますが、少し珍しい曲を選曲する人もいます。あるいは編曲ものを弾いても良いとか、自作や他ジャンルを披露できる余地がある機会もあるでしょう。一般的には選択肢に縛りがある試験やコンクールでも、やはり時代が進むにつれて新しい曲が加わっていく楽しみというのはあります。だからクラシックのレパートリーとは言っても、新たに増えたり、変化していったりするわけです。例えば、数年前まで誰も演奏しなかった作品が今ではたくさんの人が演奏するようになった…とか。

以前もブログに書いたことがありますが、ショパンの『「お手をどうぞ」の主題による変奏曲』(作品2)という曲があるのですが、これはオーケストラとソロピアノで演奏される形式で書かれたショパンの初期の作品で、つい数年前までは誰もソロで弾いた人はいなかったと思います。それが2021年のショパンコンクールで注目されたピアニストたちが弾いたことがきっかけで曲に新たにスポットが当たり、今では音大の試験などでもこの曲を普通に演奏する学生が少なからずいます。それまでこの曲は手軽にソロで演奏できるようなものではなかったのです。もちろんソロで演奏可能と思われる楽譜が手に入らなかったということもあります。ただ、そうは言ってももうすべて出尽くしていると思われている「ショパン」の作品でさえ、まだそんなことがあるくらいなのです。今でも演奏曲のトレンドが変わったり新しい発見があるのです。不思議と言えば不思議なことです。

あるいは、ガーシュインの『へ調の協奏曲』という曲があります。これは「ヘ長調」でも「ヘ短調」でもない「へ調」という名前がついていて、「なぜだろう?」と思う人もいるかと思います。これはジャズではブルーノートという音が頻出して、例えば『ラプソディ・イン・ブルー』などでもそうですが、第3音が上がったり下がったりして短調でも長調でもないような響きが多発するわけです。だから「へ調」としか言いようがないわけなのですが、クラシックには通常あり得ないタイトルですし、演奏しようと思う人はとても少なかった(特に日本では)と思います。「ピアノ協奏曲」というカテゴリにも入れられていなかったかもしれません。(今では入れられている。) この曲にもジャズっぽいと思われる要素がたくさん入っているので、これをクラシックの演奏会に持ち込んで良いのかどうか微妙なところだったということもあるでしょう。

ところが時代は進み、出自がクラシックと思われるピアニストたちがこの『へ調の協奏曲』をコンサートで当たり前に弾くようになりました。最近では角野隼斗さんがコンセルトヘボウと共演していた動画をアップしていて、私もそれを聴きましたが、第1楽章から第3楽章まで想像していたとおり自由自在に彼は即興を取り入れてクリエイティブにこの曲を料理していました。そのようなことをしようとするのはこれまではジャズピアニストしかいなかったのですが、例えば私が以前からブログなどで紹介しているカプースチン弾きのフランク・デュプレもこの曲を弾いていて、特に第3楽章の長めのカデンツァを入れられそうな箇所にはオリジナルの即興演奏を挿入していました。もちろん彼はそれ以外にもちょこちょこ装飾音を入れたり楽譜に書かれてないことを弾いたりはしていたのですが、角野さんの演奏ではもうそれは全編やりたい放題(笑)。これがまた素晴らしい着想とセンスの連続なのですが、それは昨年聴いた菊池亮太さんも然りです。彼らはいわゆる「ジャズピアニスト」ではないわけですが、時代が進んだことでもう「複数の音楽ジャンルのコラボ」というよりも、演奏家自身がジャンルを超えた活動をするようになってきたとも言えるわけです。

先日紹介したデニス・マツ―エフもそうです。彼もクラシックもジャズも弾きます。あれだけジャズマンとしても超絶技巧で、音楽上の新しい試みを次々に実現していく精力的なピアニストなのですが、実は彼が今年6月に日本で行なうというリサイタル・プログラムにベートーヴェンの『熱情』を入れていたりしていたのでぶっ飛びました。デュプレも自身のジャズトリオと精力的に活動しながら、合間のコンサートでベートーヴェンのコンチェルトを弾いていたりするし、角野さんもおそらくクラシック作品をさまざまなシチュエーションで効果的に自身の活動に取り入れています。

だから、現代の音楽シーンでは「クラシック音楽」という括りをどのように説明して良いかさえだんだんわからなくなってきたわけです。ということで少し困ってしまうこともあるのですが、これもきっと進化の過程にあるのだと理解しています。これからも若い人たちが中心となって、音楽の新たないろんな可能性をどんどん追及していってほしいと思います。

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