音楽を生業として生きていくのは難しいこと、という話はもちろん今に始まったことではありませんが、最近はますます音楽家の成功のあり方を定義づけるのが難しい時代になってきたとは感じています。これからの若い人たちは今まで以上に頭を使って生きていかなくてはいけないかもしれません。
クラシック音楽の行方はよくわからなくなっていくようにも思えたり、いや今もなお発展の最中にあるようにも見えたりもします。ただ、クラシックを含めていろんな音楽ジャンルがコラボする形で進化していく可能性はなくならないように思います。それでクラシックを勉強した上で最終的にどんな形を目指せば成功の道に入っていくのか、というのはわかりづらくなっていっていくようには思うのです。
以前少し書きましたが、もう今の時代に「CDプレーヤー」をこれから新たに買う人はきっと少ないでしょう、などと一般的傾向について言ったところで、「辻井伸行がドイツ・グラモフォンから第2弾CDを発売!」という堂々たるニュースが入ってきますし(ちなみにこれは3日後の1月9日発売。ラフマニノフ協奏曲第3番ほか渾身のソロのヴィルトゥオーゾ作品の数々が収録されました)、かと思えばLPレコード(アナログレコード盤)のリバイバルがやってきた、などの話を聞いたりもして、もうサブスクでしか音楽を聴かない人が増えていくと思っていたけど訳がわからなくなっていきます。では一体演奏家はこれからどんな媒体に録音するべきなのか。また、ライブのコンサートのあり方も変わってきているように思いますし、演奏家がデビューするという形態もYoutubeなどの影響もあってこれまた大きく変化してきていて、一体どのような形の成功を目指せば良いのか、少なくとも一律な形を示せるような世界ではなくなってきていることは確かです。
考えてみれば、昭和から平成の時代あたりまでは「成功という形」はわりに簡単に示せるものであって、指標となるものも全部もっとわかりやすかったのです。誰にとっても目指すべき方向がはっきりわかるようなものでした。今は例えばクラシックを学んでいる学生がヨーロッパとかに留学するなどと話も、ただそれを目指せば良いというものではなくなったと思います。まず留学経験のあるアーティストや指導者がすでに日本にたくさんいますし、今必ずしも海外で勉強することが誰にとってもプラスになることかどうかわかりません。現在であれば円安によって海外での勉強はますます厳しい判断を迫られたりします。
また、コンクールの価値についてもすごく変わってきていると思います。コンクールは経験を積むという意味ではいつでも有意義なものだと思いますが、でも古き良き時代と比べるともうかなり意味合いは変わってきているように思います。だから人々からの評価も難しいし、演奏家のキャリア形成にとってもこれまでのように単純なものではなくなっています。だから、演奏家を目指す人たちの一人ひとりの行動はもっと多様になっていくべきなのでしょう。その方向性ももう止められないように思います。一人ひとりが持っている価値観についてもこれまで以上に大きな違いが出てくると思うし、多様な成功のあり方が可能になったというようにも言えるかもしれません。成功へのレールが決まったものではなくなり、指導者の立場からもはたして生徒をどの方向に導くか、という面ではとても判断が難しくなってきたし、広く多様な世界を知っていかなければいけない時代になってきたと感じています。若い人たちはどんどん新しい道を切り開いていってほしいと思います。