カプースチンは偉大なるメロディメーカーといって良いでしょう。ピアノ曲にも口ずさめるメロディがたくさんあると思います。少々器楽的で歌いづらいメロディもあることはありますが、耳に残るメロディとしては、例えばぱっと思いつくのは『ソナタ・ファンタジー Op.39』の第4楽章の第2主題とか、『変奏曲 Op.41』の第4変奏のメロディなど、これらは歌えるし泣けますよね。でもテンポの速いエチュードでも平気な顔をして歌ってしまうカプースチンファンもたくさん見たことはあります(笑)。
カプースチンにはそのようにオリジナル作品が多く、他の楽曲からの借用や引用などはほとんどありません。初期のビッグバンド作品は別として、特にピアノ作品では既存のメロディを元にして作ったパラフレーズが3つだけあります。それは以下の3曲です。
・アリー・バロッソの『ブラジルの水彩画』によるパラフレーズ 作品118
・ケニー・ドーハムの『ブルー・ボッサ』によるパラフレーズ 作品123
・ディジー・ガレスピーの『マンテカ』によるパラフレーズ 作品129(2台ピアノのための作品)
現在独占的にカプースチンの楽譜を出版しているドイツのショット社は、すでにほとんどのカプースチン作品を出版しましたが、おそらくあと上の3曲だけが出版されていないと思われます。ソナタやオリジナル作品の出版のほうを急いでいてきっと後回しになってしまったのでしょうか。そんなわけで上の作品は今でも入手しづらい状況が続いているかと思います。
上のパラフレーズ作品はすべて2000年以降に作曲されたもので技術的にも少し難しいですが、やはりよく知られたメロディが使われているので日本ではきっとヒットするのではないかと思いました。そう思って私は上の3曲をいち早く世界初演するとともに、国内での楽譜出版を急ぎました。全音楽譜出版社とプリズム版、そしてヤマハなどからこれらは出版されましたが、現在ではそれらは絶版となっています。というわけでカプースチンのピアノ曲では十分ポピュラーな作品になり得るのに弾く人がまだ少ないのです。海外のアーティストも楽譜が手に入らないためかあまり弾いていません。苦労して日本版を手に入れたと思われる海外ピアニストも数名はいるようです。
(日本では上記の出版社から出版された際にしっかり出回っていますので、例えば音大図書館などでは全音やプリズム版を借りることができると思います。)
さて来週8月19日(水)にカワイ表参道で行なう「カプースチン夏フェス2026!」のコンサートの出演者メンバーにはこれまでカプースチンをよく演奏してきた経験者たちが揃いますが、上のパラフレーズ作品は3曲とも彼らの中の数名がすでに弾いています(さすが濃いメンバーです)。
また、少なくとも上の3番目の『マンテカ』によるパラフレーズは今回のコンサートでも演奏され、コンサート後のマスタークラスでは『ブラジルの水彩画』によるパラフレーズが取り上げられる予定です。
今回のイベントではカプースチンの一番の人気曲でもある『8つの演奏会用エチュード』も聴けます。第1部コンサートでは数名の奏者によって楽しむことができ、しかも今回はコンサート後のマスタークラスでもこのエチュードが4曲が取り上げられる予定です。カプースチンの曲ではよく聴かれる作品ですから聴講するだけでも多くの人にとって勉強になるのではないでしょうか。演奏としてこれらを耳にする機会はきっと多いでしょうが、このようにマスタークラスでいくつかの曲がまとめて取り上げられる機会というのはまだあまりないかもしれません。
当日のマスタークラスでは2台のピアノを並べて行いますが、カワイ表参道のパウゼではカメラで手と鍵盤を捉えてスクリーン上に大きく映し出してくれる装置があるようです。そのような視覚的情報や奏法等に意識を向けることもできますし、楽譜をお持ちの方はぜひこの日持参していらしていただければさらに楽曲への理解が深まることと思います。