演奏レヴェルが中級以上になってくると、表現においていろんなノウハウはもちろんあるけれども、やはりまずは強い指(手や腕を含めて)を作ることが必要だと思います。鍵盤が重かろうと、そんなことおかまいなしに弾けるだけの手の強度を持っていないといけないのです。そのために、ハノンの練習曲ような教材があると思います。
ピアノを習う人は、小学校低学年ぐらいからハノンを使う人も多いでしょうが、ある程度自分で意識的に使えるようになってから本格的に始めるのも良いと思います。大学生から始めても全然遅くはありません。まあ“ハノン”と言うと、多くの人は1~30番まで、あるいは「スケール全調」のことなどを思い浮かべるでしょうが、私が言っているのは、60曲すべてを通す、あるいは、「スケール」と、その後の分散和音、重音、オクターヴ、及びトレモロを含む練習曲の重要性についてです。
私自身の経験として、大学生時代に60曲全部をかなり長期間にわたって毎日通して弾いた時期があり、この期間に恐ろしいほどテクニックが上達しました。(私の場合、全曲を通すと所要時間はきっかり1時間25分。)その上達が、やがて自他ともにはっきり認められるほどになり、学内でちょっとした話題にもなりました。(私の演奏レヴェルの変貌に、「ハノンの効果」について皆(教授の先生方)が語り始めたのです!それほど、私は入学時はピアノが下手だったのでしょうか(;_;)。)その時期を経ているので、現在でもハノン1冊をすべて暗譜していて、いつでも必要な時に必要なものを取り出して効果的に使っております。正しい使い方を知っていれば、いつでも練習することができます。上手くプログラミングして20分ほどもやれば、曲の中の部分練習を2~3時間やるよりも大きな効果が得られる実感があります。だから、これを知ってしまうとやめられなくなります。ただし、そこまでいくには、60番を全曲通して弾いた経験があることが前提となるかもしれませんし、人前で常に演奏をする人は、本当にこれを毎日続ける必要があります。(その根気があなたにあるかどうか…。)まあ、たいへん時間のかかる仕事ではあるけれども、テクニックを持続するためには、こういうことを毎日続けていなければ、指は本当に思うように動かないのです。
練習の仕方ですが、テンポは自分が楽だと感じる速さでかまわないのです。できれば、いろんなことを確かめながら弾くことのできる「おそめのテンポ」が理想です。一番大切なことは、まず弾いている時の「手と指の形」なのです。これは、ちょっと文章では書くのは難しいですが、「良くない形」というのがあって、これを極力取り除かなければなりません。初心者には難しいですが、指先の角度やら、力をかける方向やら力の抜き方(抜く方向・タイミング等)など、気をつけなければいけないことが実にたくさんあります。あまり気をつけすぎると、今度は腕や身体全体が堅くなってしまったりして、けっこうこれが難しいのですね。身につけるまでは、少しばかり時間が必要です。それは、ハノンや理想的な奏法をよく理解している先生に数回チェックしてもらえば、やがて自分で分かるようになってくるでしょう。このように、正しい形を保つことに気をつけながら練習を続けていると、次第に自分でも分かるほどの効果が出てくるようになってきます。