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テンポルバートのこと

せっかくショパンの話が出たのでもう少し話を進めてみましょう。

ショパンは、自分の作品にテンポの扱い方の細かい指示(アゴーギク)を書き込んで作曲していました。このこと自体が当時非常に新しいことではありましたが、作品24以後はショパンはルバートという言葉を用いなくなり、作品25あたりからは初期の作品には多かった速度記号が顕著に少なくなっていった(作品27は例外)というふうに一般的に見られています。

結局、自分の曲ではテンポルバートをするのがもうあまりに当然だし、それを全部書くのは不可能だと悟ったということでしょう。ただ、楽譜から曲を読む人にとってなるべく誤解のない最良のテクストをいつも目指していたので、推敲に推敲を重ねて楽譜を何度も書き直して苦労していたわけです。
しかし同時に、ショパンは即興演奏が得意でしたから、いくつかのバージョンで弾いたり、実際に同時代に出版された楽譜の版によって、同じ曲でも違う音が書いてあるものもあります。どちらもショパンのアイデアで、どちらも正しいということが言えるものがあります。

また、マズルカのリズムも、ショパンが弾いたら3拍子には聞こえない(2拍子に聞こえる?!)と言った音楽家もいて、このような舞曲のリズムも楽譜に正確には書けないものの一つでしょう。

昨年5月にカプースチンの録音に立ち会ったときに強く感動した点がありました。それが何かといえば、「テンポルバート」でした。16番のピアノソナタの第2主題の絶妙なテンポの扱い方に、彼がクラシックの演奏家であり作曲家であることを深く再認識しました。楽譜を見ながら聴いていたのですが、楽譜に書いていないことを100も200もやっていました。まるでショパンのルバートのようで、それにしても熟練した技だと感じました。この音楽性には、今までの自作自演盤で聴いていたもの以上のインパクトを受けました。あとでそれを本人に伝えると、「努めて自由に弾こうとしました」と言っていましたから、やはり意図的だったのですね。そして、「自作の曲でも、弾いているうちに弾き方がだんだんわかってくる」というようなことを言っていたので強く啓発された覚えがあります。
彼は、近年の作品になればなるほど、ジャズ的なテンポ感からは離れてクラシックの伝統に立ち返っているようにも感じます。(この録音は、あと数ヶ月のうちには皆さんの手元に届くことでしょう。詳しくはここでまたお知らせいたします!)

10 thoughts on “テンポルバートのこと

  1. Kです。川上先生のBlogに登場(?)できて光栄であります。
    きょうも自宅勤務(≒サボり)といいつつHanon全曲とおして弾いてしまいました。前回より5分ほど短め。
    前回は弾き終わってぶっ倒れましたが、今回はだんだん慣れてきたのか倒れてません。(^^;)
    Kapustinのみならずどの曲を弾いていても、曲の完成度を高めようとおもうと、自分の指の弱さを痛感します。川上先生が著書に書かれているとおりですね。
    逆に、指が強くなるとこれまで挑戦しようと思わなかった曲にも挑む意欲が出てきます。
    まぁ、他にも山ほど壁は感じているのですが、これも上達のプロセスですね!

  2. こんにちは!船橋で行われた先生の講座を受講
    した者です。ハノンを抜粋して弾いたけど、かなり
    疲れました。最後まで弾けるようになる日はいつ
    になるのやら^^;
    ところで、先生にお話した某ピアニストのコンサート
    に先日、出かけました。楽屋でお話する事が
    できたのですが、かなり面白い方でした!
    最近、流行のビリーズ・ブート・キャンプを
    プレゼントしようか、考え中です (^u^)プププ

  3. Kさん、練習の鬼ですね。
    ブログをちらと覗いてますます確信しました。
    だって、カプースチンの8つのエチュード全曲レパートリーにしている(それは以前から知っていた)、というだけで普通ではないと思います。
    私は、カプースチンのエチュードでハノンの代用ができないかとひそかに考えているのです。
    良案、思いついたらぜひ教えてください!
    すみません。またメールの返信も書きます。
    hirokoさん
    あ、伊藤楽器で…覚えています。はっきり思い出しました。
    そう、彼は面白いといえばかなり面白い方ですよ。
    楽屋にまで行って話をされましたか!
    それ、プレゼントした方が良いかも…。(笑)

  4. Kapustin EtudesをHanon代わり、というのは画期的ですね!
    以下はアマチュアの勝手なおもいつきですが・・・
    確かに、克服すべき技術がKapustin Etudesには網羅されているようにおもいますので、部分部分で克服すべき課題を明示した解説書を作るだけでも、十分代用できるのでは、というのがひとつ思いつくところです。
    また、ぼくはこのところChopin Etudes Op.10&25はコルトーの解説付の版で練習していますが、上記のアイデアに加えて、予備練習的なものを加えることで、さらに効果は増すようにおもいます。

  5. 実際、カプースチンの「8つの演奏会用エチュード」は、リズム通りに正確に弾こうと思うだけでも、指が効率よく鍛えられる感じがしますね。
    曲も飽きないですから、8曲を長い期間にわたって、練習曲として指のために有効利用するのも良いかと思います。
    なるほど、コルトーと同じようなものを作るのは大変でしょうが、次にカプースチンの8つのエチュードの楽譜を出版する際には、そのような発想で編集するべきかもしれませんね。

  6. 早々とコメント下さったのですね。
    ありがとうございます!
    この前、指におもりをかける「フィンガー・ウェイツ」と
    いう物を買って、2〜3回試してみたら、それだけで
    指が強くなりました!たった5〜10分程度で・・・です。
    顔は「造顔マッサージ」、指には「フィンガー・
    ウェイツ」、そして、体を引き締めるのに「ビリーズ
    ブートキャンプ」ですね(笑)
    川上先生の後押し(笑)もあり、送ってみましょうか!!
    (日本語字幕は高いので、英語版でも大丈夫ですよね?)
    エクササイズの最後にビクトリー!と叫けぶ事が
    出来るかどうか、興味深々です (ё_ё)
    私の高校時代のクラスメイトは昨日、ビリーを見に
    空港まで出かけちゃいました。ネット広告の業界では
    有名な彼女。(名前も凄いけど・・・)

  7. Hiroshi says:

    はじめて書き込みさせていただきます。
    カプースチンを弾けるようになるのが夢の中年ピアノ弾きです。
    先日、ヤマハ銀座店でたまたま先生の著書を手にとって開いたところ、
    「ハノンを60番まで通してやるとよい」
    というようなことが書いてありましたので、思い切ってやってみました。
    一度も弾いたことのないものもけっこうありましたので、つっかえつっかえで
    たっぷり2時間半強(!)もかかってしまいました・・・
    しかし、今回の先生のコメントにもあるように、弾き終わった後
    何か得るもの(部分弾きではなかったもの)があったように感じます。
    まず、ちょっとした自信や根気のようなものがついたように感じたこと。
    心地良い疲労と、これまでにないウズウズ感とでもいうようなものがありました。
    さらに、

  8. Hiroshi says:

    (コメント切れてしまったので追記します)
    さらに、以前かならず指が転んだりつかえていた速いパッセージが
    すんなりといい感じで弾くことができました。(驚き!)
    ハノン通し弾きは今日で3日目です。
    一日目は2時間半、2日目も2時間半でしたが、今日は2時間10分に短縮されました。
    100分をめざして、頑張ってみようと思います。
    目からウロコ(?)の素晴らしい方法をご教示いただきありがとうございました。
    先生のこれからのますますのご活躍をお祈りするとともに、
    この場を借りて御礼申し上げます。
    いつか先生のコンサートや公開講座などでお目にかかれればと思っております。
    (おそれながら、実はまだ先生の演奏を聴いたことがありませんので、
    これを機にぜひCDを拝聴したいと思います!)

  9. Hiroshiさま
    長文のコメントをありがとうございました。
    そう、「心地よい疲労感」と「弾きたい!というウズウズ感」ですね。これは簡単には手に入れられない感覚です。
    ハノンは、手が疲れてしまうからといって、練習の最後に時間が余ったらやろうと思っている人もいるらしいのですが、それでは一生できないのですよね。先日そんなことを言っているピアノの学生がいたので参りました。ハノンは手のウォーミングアップでもあるので、私はまず練習時間の最初にやるべきだと思っています。ある程度は疲れてしまいますが、少し休んでから他の曲の練習に入れば良いわけですからね。日を重ねるごとに、自分の手が楽しくなってくるはずです!

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