先ほど無事に日本に帰国しました。
辻井君たちは翌朝さらに一つ打ち合わせを終えてフランクフルト経由で日本へ。私たちはモスクワ経由で日本へそれぞれ帰ってきました。サンクト・ペテルブルクで滞在していたホテルから東京の自宅まで、通しで計算すると19時間ほどかかっています。もちろん長い移動で身体はそれなりに疲れますが、近いと言えば近いかもしれませんね。でもやっぱり遠いか。
これまで私は時差が6時間くらいあっても帰国した日からすぐ仕事に入ることが多かったですが、やはり忙しい日常がすぐに始まるのは避けたいと思って今日だけはフリーです。と言ってもあと数時間ですが…。
今回はとても充実したロシア旅行でした。
サンクト・ペテルブルクは綺麗な街でした。モスクワの重厚な雰囲気とはまた違って、洗練された感じというか若者に似あうような雰囲気があり、街には活気もありました。景色や道路やお店を見ているだけでもテンションが上がります。
今回ゲルギエフの自宅を訪ねることができたのは思わぬ副産物ではありましたが、強烈な思い出になりました。いやもう、ロシアにはあらためて深く尊敬の念を強くしました。音楽もバレエも他の芸術もそうですが、本当に人々は芸術を愛する心があるし、街には歴史の重みもあるし、人々の物事に対するセンスの素晴らしさにも感銘を受けます。人の優しさにも感動しました。道を歩いていても、困っているとすぐに誰かが声をかけてくれたりします。親切心からくる行為なのですが、例えば私が閉まっている店の前で途方に暮れていると、「そのお店は移転して今向こうにあるよ」とか、地下鉄で一瞬乗り換えが分からなくて地図を見ていると「手伝いましょうか?どちらへ?」などとすぐに声をかけられたりします。そして詳しく教えてくれるのです。日本だと、他人のことをそこまで干渉しないかなと思われる場面で、ロシア人はとてもフレンドリーなのです。これはモスクワでもペテルブルクでもそうでした。
あと、マリインスキー劇場の聴衆も洗練されていると感じました。毎回のコンサートが満席ですし、本当にクラシックを愛する人たちがこんなにいるのかと思いました。音楽に深く感動している様子なのです。ところで、ゲルギエフは5年前にもプロコフィエフをたくさん取り入れたプログラムをやったようですが、今回はそれにも増してオペラをかなり入れ込んでいるようです。ゲルギエフによれば、聴衆はプロコフィエフが好きなのだそうです。こういう言い方は私たち日本人はしないなと思いました。うまく言えませんが、何か教養の違いのようなものを感じました。プロコフィエフの交響曲(7曲)には、まだ聴いてすぐ理解できるとは言いがたい作品もあると思います。それらをロシアの聴衆は普通に楽しんでいるのです。ただ、このサンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場を中心とした音楽文化の発信によって、ここまでクラシック音楽を活性化させた指揮者ゲルギエフの功績は本当に大きいものなのだと思います。
余談ですが、私がちょうどサンクト・ペテルブルクを日本に向けて出る直前に、日本からモスクワに着いたばかりの某ピアノ音楽の大家とも言える音楽学の大先生が私にメールで連絡をくれました。私がロシアにいることを知って、ひょっとしてモスクワで会えるかも?!と思ってくれたらしいのですが、私たちの帰国のスケジュールとどうしても合わずに断念。詳しくは知りませんが、きっと彼はモスクワでの今年のこのプロコフィエフ生誕125周年記念イベントの関連で音楽雑誌等で近々レポートしてくれるのではないか、と期待中…です。



