昨夜は遅くまで興奮気味でした。
ホテルに帰ってきたのは深夜の2時近くになってしまいました。だって、何と言っても演奏会終了後に辻井君を含む私たち4人はマエストロ(ゲルギエフ)本人に誘われ、スタッフや興行主など彼の周りの人たちと一緒に彼の私宅に招かれたからです。そして私はマエストロと辻井君に挟まれて座ることになりました。お陰でマエストロとも喋ることができて、とても貴重な時間を過ごしたのです。ゲルギエフの素顔(人間性や音楽観)を垣間見ることができて、やはり会って話をしないと人間は分からないものだと思いました。音楽を聴いているだけでは感じなかった尊敬の念が湧いてきました。
昨日のコンサートですが、今回はすべてプロコフィエフ生誕125周年を記念した一連のシリーズですから、前半にはプロコフィエフの交響曲第1番と第2番。後半が辻井君のベートーヴェンの『皇帝』でした。最後は満場の客席からの拍手に答えて伸行君は「熊本の皆さんへの思いを手向けて弾きます」ということでベートーヴェンの『悲愴』の2楽章を演奏。ところがそれだけでは終わらず、ゲルギエフに促されて2曲目、3曲目、そして合計4曲もアンコールを弾かせてもらえました。先日のピアニストたちが1曲ずつしか弾かなかったことを考えると、これはかなり特別で破格な待遇だったと思います。マエストロの辻井伸行君に対する愛情と信頼と期待がこんなところに現れるものなのですね。そして聴衆はスタンディングオベーションでした。私は1階の1列目に座っていましたが、後ろを振り返って皆が立っているのを見てびっくりしました。彼はアンコールでさらに聴衆の心をわしづかみにしましたね。(ちなみに他のアンコール曲は、『ラ・カンパネラ』、『ラフマニノフのパガニーニ変奏曲の第18変奏アレンジ』、『ショパンの革命』)
辻井君はこれまでゲルギエフの指揮で『皇帝』の他に、チャイコフスキーの第1番、プロコフィエフの第3番などイタリアやドイツ、日本などで弾いてきており、もう5年来のお付き合いとなっているのでマエストロとの信頼関係はしっかりできているようです。
それにしても、ゲルギエフの行動力と体力には脱帽です。深夜の0時は彼にとってはまだお昼間のような感覚らしいです。さすがに今回のように大きなコンサートを一日3回も連続して振るなどというのは、それこそ「プロコフィエフの誕生日だったから特別」だとは言っていましたが、今回は本番がぎっしり詰まっているので、リハーサルやゲネプロをやる時間を捻出するのが大変だったようです。例えば3日前のマツーエフとやったプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番はゲネプロなし!で本番。双方とも凄いといえば凄いです…。またトリフォノフとの第3番も時間がなくてやはりゲネはほんの少しだけだったとか…。辻井君は今回ベートーヴェンであったとは言え、合わせは文字どおり「本番直前」の1回だけでした。
しかし私は今回それらの演奏会を聴いて、そんなギリギリの状況の中でも、ゲルギエフ指揮するオーケストラの演奏のクオリティはとても高いもので、演奏はどれも感動的なものだったと思いました。私もいろんな意味で今回ものすごく刺激を受けてしまいました。伸行君も本当にお疲れ様でした。立派で堂々としたパフォーマンスだったと思います。またすぐ日本で会いましょう。

