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カプースチンの音楽の秘密

つくづく作曲家カプースチンの能力には感嘆してしまいます。
カプースチンの音楽には本当にいろんな顔があるんです。

先日、たった1曲しかないフルートとピアノのためのソナタOp.125をついに初演しましたが、このソナタ、1回聴いて「なるほど、細部まですごい曲だ!」などと思った人はおそらくいないでしょう。演奏する本人でさえ、初演曲というものは本番の2~3日前になって突然にして全体像が見え、曲の真価が深くわかったりするものです。アナリーゼして頭でわかっているだけではダメで、それは練習を続けて一定の時間を経なくては見えてこないものです。もし良い曲だった場合は、これが現代曲をやるときの醍醐味と言ってもいいでしょう。

実はカプースチンの曲には、メロディーが魅力的なだけではなく、頭で考えて作られている部分=数学的な技法も一部入っています。
一つ挙げると、作曲技法としてのフーガですが、フーガのテーマは「基本型」のほかに「反行型」というものがあります。これは五線譜での音程関係を上下逆にした形です。例えばわかりやすい例で言うと、下から上へ「ドミファソラ」という音型の反行形は、上から下へ「ミドシラソ」となります。この発想はバッハのインヴェンションでもお馴染みですね。これ以外に「逆行型」と、「逆行型の反行型」という4種類がある、ということを彼はいつも考えていて(シェーンベルクの十二音技法を学んだ影響でしょう)、しかし決してこれを厳格な形で使うのではなく、味付けとしてそういう要素が彼のソナタなどにたくさん入っているのです。特に、「反行形」を予想外の箇所に効果的に使うのがカプースチンの常套手段で、フルートソナタでも複数の楽章で何度もいろんな方法で使っています。

何を言いたいかと言うと、カプースチンは天才的なメロディーメーカーでもありますが、例えば第1主題が歌いやすい美しいメロディでも、そのメロディの反行形は決して歌えるようなものではないものになります。基本形と反行形のギャップが大きい。この点、バッハの場合とはちょっと違います。だから、まったく突然現代的な装いになり、それでいて曲には不思議な統一感が得られている感じとでもいいましょうか。クラシック音楽の歴史で実験されてきたすべてのことを超越したような響きが全体を覆っているという感覚さえ持たされてしまうのです。

これはほんの一例ですが、だから彼の音楽は一度聴いてよくわからないのだけれども、実は深いところで隠された調和を見せています。何度聴いても飽きないのはそのせいもあります。メロディーや曲の構成が素晴らしい点も大きいですが、すぐに見えないところに技がたくさん施されています。ハーモニーやリズムの扱い方もそうだし(決して一様ではない!)、どの曲も細部にわたって人の裏の裏をかいていて決して手を抜いていないのです。

それでいて、カプースチンは基本的には感性の人。初めて聴いてもわかる要素もたくさん入っているし、楽しく大衆的な音楽でもあるのです。どの曲もおおむね人の気持ちを明るい方向に引っ張っていってくれます。同時に彼の知的な部分にも本当に惹かれてしまうのです。

あ~、カプースチンの魅力について語ると終わりませんね。

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