ピアノを学習している人で楽譜出版社ショットの名前を聞いたことがない人は、おそらくあまりいないでしょう。マインツに本社があるドイツの最大手の音楽出版社ですが、もう創立200年以上にもなる老舗です。もちろん私なども、もう長い間さまざまな作曲家の作品を弾くためにショット版の恩恵を受けてきました。
今回のドイツ旅行でようやくこのショットの本社を訪ねることができました。
今回わざわざ訪ねた目的は、ショット社が2~3年前からついにカプースチンの作品出版を手がけるようになったからです。ショット社は多くの現代作曲家の作品を手がけてきたことでも有名です。今年になって日本国内にもカプースチン作品の輸入版楽譜が手に入るようになってきましたし、今後もカプースチン作品はショット社が力を入れて世界に向けて出版していくという方向がはっきり見えてきたので、もうこの辺でショット社よりずっと早くからカプースチン普及のための活動を続けている私としては、一度足を運んでおくべきだろうと思いました。
ショット本社の正面玄関を入ってすぐ左の壁に、私のフルネーム入りで『ようこそいらっしゃいました!』というプレートを見つけました。私が来るのを楽しみに待っていてくれたようです。素晴らしい中庭を持つ大きな建物ですが、その中の一室に案内され、さっそくカプースチンの楽曲の出版編集担当、編集部長、作品管理担当、協奏曲作品などのレンタル担当者たち等々すべての関係者にお会いできました。(レンタル関係の人だけは担当者ご本人が休暇中で、代理の方とお会いできました。)
最後に「よろしかったら、ぜひ社長も同席するので昼食もご一緒にしましょう」と言われたので、お言葉に甘えて、近くのグーテンベルク広場で時間を潰していた家内まで(笑)がお邪魔させていただいて一緒に歓談しながらお昼を頂きました。
この席でショット社のトップであるDr.ペーター・ハンザー=シュトレッカー氏にもお会いできたのですが、彼自らが契約の際にはモスクワのカプースチン自宅まで訪ねて行き、そのモスクワ訪問時の写真を綺麗で立派な装丁を持ったアルバムにして(この行為自体がとてもショット社っぽい!)後にカプースチンにプレゼントしたらしいのですが、実はその素晴らしいアルバムを私は2014年にカプースチンを訪問した際にカプースチン本人から見せてもらったことを思い出しました。
ハンザー=シュトレッカー氏自身がカプースチンの音楽について意識が高かったのはもちろん、もっと驚いたのは、スタッフ全員がカプースチンに関してかなり高いレベルまで話が通じたことです。また彼らは音楽全般にも詳しく、人間的にもすばらしく、あらゆる意味でバランス感覚に優れていました。私の窓口になってくれているロベルト氏などもピアノを専門にやってきたわけではないのに、『変奏曲』Op.41を自分でもすでに弾いたと言います。他のスタッフたちも名刺を見るとほとんどが「Dr.~」です。彼らはインテリで、かつ音楽をとても愛していることが分かりました。(実際、会社の人たちの半分は楽器が演奏できるのではないかと推察しました。)
今後は私もチームの一人として協力していくことになりました。あらゆる現代作品に手慣れてきたとは言え、ショット社にとってもカプースチンは手強い作曲家であることは認めているようで、私のサポートをとても喜んでくれています。まだ具体的にはこれからですが、少なくともカプースチンを取り巻く環境はさらに良くなっていくことと思います!



