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カプースチンからの手紙[第17回]


[2006年11月24日]
「親愛なるマサヒロ!


私が今回のCDで予定している自作品のすべてを録音できたとしても、まだOp.109以降の新しい8作品が録音されずに残ることになる。
リュドミル・アンゲロフは私の作品のみでCD録音することを考えているらしく、そこにはOp.113(※ホイール・オブ・フォーチュン)とOp.120(※ピアノソナタ第14番)は入るはずだ。
ジョン・サーモンはどうしてだかOp.127(※ピアノソナタ第15番)を録音しない。

さて10度音程の話だ。
ピアノの鍵盤は不規則な配列になっている。そのため「長10度」は3つのグループに分けられる。
1. Des, Es, EとAs, B, Hから始まる長10度。これらは私の手でも届かない。
2. DとAから始まる長10度。届くがとてもきつい。
3. C, F, Fis, Gから始まる長10度。これらはギリギリなんとかなる。だが鍵盤の上からはつかめない。
というように、私の手でもけっこう余裕で全部届くというわけではないのだ。
短10度だともちろんまったく別の話になる。こちらはもっと楽だ。

ごきげんよう。
N. Kapustin」


このメールと前回紹介したこの4日前のメールの間に、実はもう1通もらっていて、そこにはCDに収録予定の曲目リストが載っていました。それはもちろん実際のCD「カプースチン・リターンズ」に入っている曲ですのでここでは省略します。ただ、収録する曲についてはいろいろ迷いがあったらしく、ソナタ第9番を実はこの時期暗譜で弾けるレベルだったが、先にCDリリースされていたルデンコの演奏を聴いて「私はフィナーレをあんな速さで弾けないからやめた」とか、いろんなエピソードはありました。

このメールでは、作曲されているのにまだ録音されずに残っている新しい作品について、あるいは他のピアニストによるその時点での録音の見込みなどについてカプースチンしか知らなかった情報を教えてくれました。

その後に、手の大きさの話になり、私が「カプースチンさんは10度が届きますが、私など多くの日本人ピアニストはそんなに手が大きくないのです」という話をしたりしていたので、上のように長10度音程を片手で掴めるか掴めないか、というような話になりました。メールを見てもわかるとおり、こんなふうに一つのトピックについて、カプースチンはいつも細かく丁寧に分析して教えてくれます。ひと口に「10度音程」と言っても、確かにいろんな可能性があって、作曲家はそんなことまで考えて作曲しているのだろうと思いました。

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