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暗譜を確実にするための考え方

 楽譜を読んで1曲を完全に覚えるまでに十分すぎる練習時間が与えられている場合は、暗譜をするということにそれほど躍起になる必要はないでしょう。その場合は、おそらく「指」が自然に覚えてしまうので、誰でも、ほとんど“自動的に”弾けてしまうところまでいける可能性があります。ただ、それは本当の意味での暗譜とは言えない気がします。 暗譜を忘れてしまう理由は、人前に出るとアガってしまうというような理由も決して小さくはないと思いますが、それ以上に、「すべての音をちゃんと理解して覚えていない」ということが大きな理由かと思います。とは言っても、小さな子供に「ハーモニーを分析して理解しなさい」などといっても無理ですから、ある程度の年齢になって作曲家がどうしてその音を書いたのかということを考える力がついたり、和声の理論を勉強して少し理解できてくるあたりで意識し始めると良いでしょう。そうすれば正しい暗譜ができてくると思います。小さな子供が、本番中によく途中でわからなくなって止まってしまうのは、ひとえに上記の理由です。多くは指で覚えているだけだからだと思います。

 「リズムを体で覚える」というのはある程度理解できますが、「ハーモニーを体で覚える」というわけにはいかないでしょう。やはり「和声」は複雑で深いので勉強したりして理解することが必要な気がします。勉強といっても分析力が必要というのではなく、複雑なハーモニーを正しく聴き分ける能力です。例えばジャズピアニストの耳はときおり信じられないほどだと感じる時もありますが、結局、耳がハーモニーを正しく聴き分ける力を持っていれば、理論はそれほど必要ないのかもしれません。リズムもハーモニーも複雑になればなるほど、やはり暗譜には時間がかかるのは当然です。例えばラフマニノフのピアノ曲は音が多いのですが、分析不可能と思えるような和音も多く出てきますから、耳で聴き分けるといったって無理にも思えます。それぞれの和音には構成音以外の不協和な音が不規則に重ねられていたりして、暗譜が大変なのです。そこへいくと、モーツァルトだと、たとえコンチェルトであっても、覚えるのははるかに楽です。音も少ないですし、簡単に聞き分けられる和音ばかりだからです。

 クラシック音楽の演奏は、ポピュラー音楽の伴奏付けのように、コード進行だけ決まっていて和音の弾き方にはいくつかの選択肢がある、というわけにはいかないので困るわけです。ただ、欲を言えば、和音に限らず作曲家がその音を生み出した意図を正しく理解していれば、「ここは絶対にこの音以外にない!」という部分もあれば、作曲家自身が「ここはどちらでも良い」と思っているような箇所も実はあります。優秀なピアニストは、そのようなことを理解して自分で勝手に音を変えたりする場合もあるわけです。もちろんそこまでの理解ができた時には、暗譜は当然のこととなっているでしょう。

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