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楽曲分析はなぜ大切か

CDのブックレットには、収録されている曲の解説が書いてあります。作曲家に関する伝記的な記述や作品について、またその曲が作られた背景事情や収録曲の音楽的解釈や簡単なアナリーゼが書いてあることもあります。最後の、このアナリーゼ(楽曲分析)に関しては、普通はあまりCD解説などでは細かくは書かれず、せいぜい曲の“主題”やその展開、そのほか音楽的な要素を、いくつかの形容詞で修飾して、なにやら分かったような分からないような説明に終わっている場合も多いかもしれません。音楽を、客観的な形容詞で修飾することは、けっこう難しいものです。たまに、曲の分析をけっこう詳しく説明してある解説書もありますが、多くの人にとっては、楽曲分析はそれほど必要のないものに見えるかもしれません。ただ、自分の場合を考えてみると、子供の時にレコードの解説に詳しい曲の分析が載っていた場合は、それに取りつかれ、主題を追いながら音楽を聞くのがとても楽しかったのを覚えています。これは、大いに勉強になりましたし、作曲家の意図や音楽の持つ深さを理解できるきっかけになったことも確かです。

しかし、曲を技術的に分析することはそれほど重要なことなのでしょうか。音楽は、別に難しいことなど知らなくとも雰囲気で聴けばいいのではないか、良い音楽は、聴けば程度の差はあったとしても誰でも楽しめるはすだ、という意見もあるでしょう。それは、その通りだと思います。でも、簡単な楽曲分析ができれば、さらに音楽を深く楽しむことができることも間違いのないことです。
例えば、音大では「和声法」というのを学びます。すべてのハーモニーに、機能的観点からとらえた名前をつけることができるのです。ローマ数字と普通の数字の組み合わせで書いたりして、知らない人から見たらただの暗号に見えるものです。和声機能ともいいますが、これは仕組みが分かれば誰でも理解可能なものです。書き方は違いますが、“コード進行”も同じです。ある曲が作られた背景を知ることや作曲家について勉強することはもちろん大切ですが、一見技術的に見える、この「和声法」を知ることは、さらに音楽を深く知ることにつながります。なぜかというと、作曲家はすべてこれを知っていて作曲しているからです。また、和声法を理解していないと、基本的に即興演奏などをすることも不可能です。ジャズマンたちは、見かけは適当に演奏しているように見えても(笑)、本当はものすごく頭の良い人たちなのです。感情的に音楽に乗って弾いているだけでは、和声進行はできないのです。汚い音だけになってしまうはずです。
それから、曲の「形式」を知ることも助けになるでしょう。すべての曲が、そんなに縛られた形式に則って作られているわけではありませんが、テーマやその展開の仕方、構造的なことを知っていると音楽を深く理解できます。実際、演奏する段階においては、形式を細かく理解していると暗譜をするのも早くなるでしょう。

音楽を本格的に勉強している人ではなくとも、実際に楽譜を見て、テーマがどうなっているか、和声がどうなっているかを理解して、ちょっとピアノで弾いてみるだけで、その音楽がとてつもなく親近感の沸くものになると思います。ただ単に音楽を受身で聴くのとでは本当に雲泥の差がありますから、ぜひ試してみてほしいと思います。(もちろん、そんなことどうでも良いと言う人は、ただリラックスして音楽を聴いてくださいね(^^)。) そういうわけで、そんなこと面倒だと思う人のためにも、ひょっとしたら良い案があります。ちゃんと演奏のできる人が、もし曲のつくりなどを簡単に分かりやすく説明できれば、例えばラフマニノフやメトネルのコンチェルトのような難解な楽曲でも楽しんでもらえる可能性があるのではないか、と思うわけです。一回限りの音楽会では、聴きたいメロディーも一度で消えて行ってしまいます。おそらく、コンサートが終わったら普通は何も耳に残っていないことでしょう。しかし、CDなら自分の好きなところを何回も聴いてメロディーを覚えることもできます。録音をいつでも聴ける現代のような時代では、そういうようにして音楽の理解が早く進み、楽しめるということはあるでしょう。私などは、さらにピアノの演奏と曲の解説を伴なった実演によって、多くの人に自分たちが得ている素晴らしい感覚と同じものを伝えることができないか…、それを試みてみたいという欲求が沸いてくるのです。そういう形式では、大事なところだけを抜き出して何度も聴かせることができますし、分かりやすく説明することもできます。結局、ラフマニノフのコンチェルトなどの難しい曲に限らず、クラシック音楽全般において、理解を助けてくれるガイド役が必要だとも言えるでしょう。また、そういう場を作ることが音楽家の使命でもあるかもしれません。黙っていても、自分の足でCDを買いに行き、自分で演奏会へ行き、一度聴いただけでその音楽に深く傾倒して…という人は珍しいと思います。演奏会や教授法等の講座も現在盛んですが、上のような視点からクラシック音楽の素晴らしさを、多くの人に分かりやすく提供できる形の講座などができると良いかもしれませんね。

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