鍵盤の上で指を動かす練習を何日間もせずに、いきなりピアノを弾いても指は思うように動いてくれません。では、指をいつでも理想的に動かすためには、毎日コンスタントに何時間も弾いていなければいけないのでしょうか。
常に自分の望むフィンガー・パフォーマンスを維持するためには、やはり毎日ピアノを弾いていることが理想的といえるかもしれません。では、プロの人たちは毎日どのくらい練習しているのでしょうか。また、一日平均何時間の練習で十分だと思っているのでしょうか。
その前に、指の基礎練習に関することですが、私はかなり以前にハノンを長時間毎日やっていた時期が何度かありましたが、指をそうして鍛えているとたしかに力はつくのですが、毎日テクニック練習に負荷をかけてやっている状態が続くと、突然ある曲を弾こうとした時に指が全然よく回らない、逆にすごく動きが鈍くなるという経験をしたことがあります。そのことを他のピアニストに話したときに、やはり同じ現象を経験していたことを知り、常に極限まで鍛えている状態は「良くない」ということがわかりました。二十代を過ぎてからの話です。だから、手指に基礎的な筋力がついたあとは、それを最低限維持するのに毎日どのくらいの基礎練習が必要か、つまり指の基礎体力が落ちないようにするにはどうすればいいかを考えると良いと思います。
ハノンやチェルニーなどの「基礎練習」をどう考えるかは人によってさまざまだと思いますが、それをも含めたトータルの毎日の練習時間はどのくらいが理想的といえるのでしょうか。
私自身はいくつかの段階を設けて練習時間を管理しています。つまり、本番のために「何時間?」あるいは「何十分?」の演奏時間を持つプログラムを抱えているか、どのくらいの量の曲を一度に準備しなければいけないかで、一日の平均練習時間を設定しています。まず、ソロ・リサイタルなど80分を超えるプログラムや、新曲や現代曲、暗譜で弾く必要があるものを含む大きなプログラムを同時に抱えている時は、1日平均6時間以上を目安にしています。最低これだけやっていれば安心という基準です。次に、それほど大きくないプログラム、その半分くらいの労力を必要とする場合は4時間以上、ソロを弾かない時など、もっと楽な場合は平均2時間40分を目安にしています。これが最低で、一日の平均としてこれだけ確保できればまずは安心できます。面白いことに、自分の場合は「ちょっと本気」を出して毎日練習に取り組むと、必ず一日のトータルで「2時間40分」前後、「かなり本気」で取り組むと「4時間超」、「ものすごく本気」で取り組んで「6時間超」の練習時間になります。これが、ここ十数年のデータから割り出した「これだけやっておけば安心できる」という数値です。(“ものすごく本気”になるためには、「一日すべてを練習中心とした生活」にする必要があるのですが。) 大事なことは、実際に一日どれほどの自分の時間を練習に充てたかを毎日チェックすることです。
人前での演奏レベルを常に自分の望む通りに維持したいと思う人は、自分自身の理想的な「練習時間の」を具体的に知っておくことです。実際に練習できた時間数を毎日ノートにつけておくと良いでしょう。人によって、おそらくこの練習時間の設定はいろいろあり得ると思います。プロ・アマを問わず、能力のある人は例えばもっと少ない時間で自信が持てるレベルを維持できるかもしれません。練習する曲が多くなってくると、自分の準備している曲の大きさ(演奏時間)をある程度把握しておくことが大切です。