
[2007年1月10日]
「親愛なるマサヒロ!
あなたの著書のタイトルをぜひロシア語に翻訳して教えてくれませんか?
それと日本語でもそのタイトルがどんな感じか見てみたいな(ローマ字で)。
それを全部書くのに1か月で充分だったなんて本当なのでしょうか?
では作品114についてです。
(以下略)
あなたにはもう伝えておきますが、私が今練習している曲(それは作品75、111、112、115、117、118、121、122、123、130、131です)に大量の変更点が出てきました。その中のいくつかは別の形になってしまったような箇所もあります。でも今は自筆譜にその修正点を全部書き入れるための時間さえありません(それは楽譜に入念に修正した紙を貼る必要があります)。少し経ってからもちろんそれはあなたに全部お送りします(たぶんファックスで)
敬具
N. Kapustin」
まず最初の3行は、私が2007年1月6日に出したメールで、「前年の12月は自分の著書の出版に向けて1か月間ほどの最後の追い込みで忙しかったのでずっとメールが書けませんでした」という私が送った内容に対しての返信だったと思います。
私の著書のタイトルが知りたいということですが、英語のタイトルはちゃんと伝えていたのです。それは本の副タイトル的に編集者が英語で入れてくれたものだったと記憶していますが、「A Treasury of Tips on Playing the Piano」(日本語のタイトルは「ちょっとピアノ 本気でピアノ」(ヤマハ刊))でした。それをロシア語に翻訳してみてくれ、とか、日本語では何と言うの?(それもローマ字で)とかいう…どうしてそんなことを知りたいのだろう??と思うような質問で笑ってしまいました。
もちろんカプースチンは日本語を勉強していた時代がありますから、ときどき日本語にも興味を持ってくれてはいました。ちなみに上のカッコ内の「ローマ字で」というのは、キリル文字でもなく英語でもなく、本当にローマの字体(=アルファベット)で(romazi)と書いてありました。(笑)
とにかくカプースチンにとって、生み出されたものに与えるタイトル(名前)は本当に大事なものだったのだと思います。おそらく自身の作品についてもそのくらいのこだわりはあったのでしょう。
この時期、私は次の国内でのカプースチンの楽譜出版のための準備と、自分の新しいCD録音の準備のために、よくカプースチンに楽譜上のことで質問をしていました。このメールではピアノ小品Op.114の自筆譜の中の不明点や曖昧な点について質問して回答を頂きました(その内容についてはここでは省略)。その話の次は、ちょうどカプースチンは自身の3か月後に迫ったCD録音の準備の真っ最中で、練習中のほぼすべての曲にいくつもの小さな改良を加えたという話でした。やはり作曲者自身があらためて演奏してみることで、もっと良い考えが浮かんで「ここは音を変えた方が良い」とか、「音符や休符の表記を変えた方が良い」とか、あるいはリズムやパッセージそのものをかなり変更したりとか出てくるものなのでしょう。「たくさん加筆した」ということでした。もちろんそれはあとで私は全部教えてもらって、その後に出版する楽譜にはすべて加筆後の情報を反映しました。
楽譜上の修正は本当に細かな作業で、メールでは正しく伝えるのが困難で微細な点も多く、時にはモスクワ⇔東京間でファックスのやり取りをしたりしました。メールの不具合もよくありましたから、その頃はファックスも意外に功を奏していました。まだまだパソコン上でPDFファイル化して送るようなことは考えられなかった時代の話です。今では懐かしい記憶です。