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暗譜はどのようにするのが良い?

暗譜の話題については何度も取り上げていますが、ここでもう一度新しい考え方を書いてみたいと思います。早く正確に暗譜をするには、それなりの時間はどうしてもかかります。これを一足飛びに簡単にやってしまう方法というものはないということを、まず知ってください。その上で、これから書くことは一つの理想論です。実行不可能なわけではありませんが、すぐに理解して行なうのはひょっとしたら難しいかもしれません。

暗譜の仕方に、完璧な方法などあり得ないようにも思われますが、私の持論としては次のようになります。つまり、『頭』と『耳』で覚えることなのです。これに『指』とか『目』も動員させるという意見はよくありますが、これに反対するとまでは言わなくとも、大切なのはやはり『頭』と『耳』だと言えます。
まず『頭』で覚えるということは、その楽曲をよく理解するということです。先日から力説している「アナリーゼ」にも関係があると言えますが、すべての音符について意味を理解している、よく分からない部分がない、というところまでいけばベストでしょう。とは言っても、すべてを理解するためには作曲家と同じ考え方や感じ方ができなければならないわけですが、普通はとてもそこまでは求めることはできないでしょう。自分の理解と勉強の及ぶ範囲で良いと思います。
次に大事なのは、『耳』で覚えることです。意外にも、ピアノを弾く人には耳をよく働かせていない人が多いのです。信じられないことですが、自分で弾きながら音を聴いていないということがよくあります。極端に言えば、間違った音を弾いていても分からない人もいます。これは、楽譜を見ながら弾くことに慣れすぎてしまっているということに起因しているかもしれません。楽譜を目で追いながら安心してしまって、実際にどのキーを押さえているか分かっていない場合があります。音をよく聴くということは基本中の基本なのに、これがけっこう難しいことなのです。タッチや音色の勉強をしようと思ったときに初めて自分の音を聴くようになる人もいると思いますが、でもこれは本当は最初からやっていなければならないことです。

『頭』でちゃんとすべてを理解して、そして『耳』で音楽を追っていれば暗譜は恐くないはずなのです。『目』で覚える必要はないのです。楽譜は一度頭に入れたら、ある意味、忘れてしまうところまでいかないと、自然な音楽が出てこないということがあります。だから、あまり楽譜に頼りすぎてはいけないのです。また、楽譜の瑣末事に拘泥してしまう傾向があまり強くなってしまってもよくないでしょう。音楽はやはり『音』で覚えるべきだと思うのです。ある曲をさらい始めたらできるだけ早く楽譜をはずすことが大事です。(もちろん、楽譜に書いてあることをすべて勉強した後にですが。) それから、『指』(の運動)で覚えるというのも、もちろんそれが助けになることもありますが、やはり危険なのです。それは、一つの動きに凝り固まってしまうからです。演奏中にもし間違ったら、二度と元に戻れないということがあります。また、指使いにしても、練習中に常に理想的なものに変えていかなければならないのですが、これも融通がきかなくなってしまいます。音で覚えていれば、本当はそれも大丈夫なはずなのです。

そして、もう一つとても大事なことですが、曲をある程度長い間さらったら、なるべく早く、『楽譜』も『鍵盤』もどちらも見ないで練習するようにすることです。どちらを見てもいけないのです。この訓練をすると、当然ながら自分の音をよく聴いて演奏するようになると思いますし、また、身体の使い方や弾く時の姿勢も良くなっていくことでしょう。一歩ずつ着実に、立派な演奏家に近づいていくこと間違いなしです。

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