カプースチンのピアノ作品全曲シリーズVol.3の収録曲は、おそらく熱心なカプースチン愛好者でも知らない曲が多いと思うので、まだリリースまで数日ありますが内容について少し詳しく書いておきたいと思います。
まず収録曲は、
・『ピアノ協奏曲第5番 作品72』
・『10のインヴェンション 作品73』
・『カプリチオ 作品71』
・『イントラーダとフィナーレ(六重奏曲)作品79』です。
『ピアノ協奏曲第5番』は、昨年11月15日にザ・シンフォニーホールで飯森範親指揮、日本センチュリー交響楽団と共演した音源で、日本初演となった演奏ですが、オクタヴィア・レコードさんがこの日のために東京から来てくださって実現した奇跡の録音となりました。
コンチェルト全曲は一続きで、約21~22分ほどの曲です。冒頭のオーケストラに続いて始まるピアノ・ソロのパッセージが実はこの曲の一番重要なテーマで(全然そう聞こえないのですが)、ソロのカデンツァ部分も含めて全曲が本当に有機的に構成されています。
私はこの曲と出会ってカプースチンの天才性に驚愕しました。これだけ壮大な構想が一体どうやったら浮かぶのか。この曲と出会えて本当に良かったです。
このCDの告知動画がYoutubeにアップされて、その中で、ほんの少しですがこの『ピアノ協奏曲第5番』の音源が流れています!
『10のインヴェンション』は、バッハのインヴェンションをイメージする人もいるかもしれませんが、もちろん全然易しい曲ではありません。いや、それとは正反対で、これほどカプースチンで難しいと思った作品はなかったかもしれません。1曲1曲はとても個性的で、聴けば聴くほど味が出る、と言った類の音楽です。十二音の音列が全10曲を通してけっこう使われているところを見ると、カプースチンはこの時期(1991年~頃)、自身の作曲において新しい技法をいろいろ試していたのだと思います。とは言っても、決して単なる実験的な音楽というわけではなく、ちゃんとこの時代の完結した自身の音楽のスタイルを築いていると感じます。
『カプリチオ』では、二つの十二音音列を使って作曲されたことがはっきりしていますが、とてもおもしろい発想で作曲されており、カプースチンの作品の中ではかなり異色のものだと言えるでしょう。それでいて、同時にカプースチンらしさが満載であるとも感じる不思議な魅力を持った曲です。かなり風変わりだとは思いますが。
『イントラーダとフィナーレ』は六重奏曲でフルート、オーボエ、ヴィオラ、コントラバス、ドラムス、ピアノという珍しい6名で演奏しますが、この曲はおそらく聴きやすい曲に分類されると思います。各々の楽器のソロが挿入されていてとても軽快です。特に、オーボエがソロで使われているカプースチン作品は希少価値があります(おそらくこの曲だけ?!)。
このCDでの共演者は、楽器の順番に大塚茜さん、吉川直貴さん、菊池武文さん、佐藤洋嗣さん、重本遼大郎、私です。今年の2月末にホールでセッション録音したものですが、とても楽しいひとときでした。何度聴いてもまた聴きたくなります。
今回のCDでは、高久暁さんの日本語と英語による解説が素晴らしい内容を持っています。現時点でカプースチンの楽曲についてここまで書ける人は、おそらく世界を探してもいないのではないでしょうか。全曲がCD世界初録音なのに、どうしてここまで知っているのだろう!!と不思議に思う人も出るだろうと予想されるクオリティです。やはり初期から(2000年以前から)カプースチンを知っていた人ならではの洞察力が文章の端々に入っていると感じます。
そのようなわけで、ブックレットは通常の12ページでは収まらず、今回は豪華版の16ページ!また、ジャケットのデザインも素晴らしく、これ、デザイナーさんも天才ではないか?と思われます。もうとにかく、多くの人の素晴らしい能力とセンスと愛とが組み合わさって出来上がった奇跡のCDとなりました。こんなものはそうそう生み出せるものではないと思います。関わってくださった多くの方々に感謝の限りです!本当にありがとうございました。