一昨日11月6日に浜離宮朝日ホールにて行われた「カプースチン追悼コンサート」が無事に終了しました!

コンサートの出演者たち ‐ 終演後に撮影
カプースチンを愛するさまざまな楽器のアーティストたちが集合し、クオリティの高いパフォーマンスを繰り広げてくれました。

上野耕平さん(右)と私(左)で演奏会をナビゲート
当日は満員の観客の中、休憩なしの90分のプログラムでトークを挟みながら大きく7つのステージで構成しました。主催はイープラスさんで、演奏会は同時にライブ配信、そして12日夜までアーカイブ配信を行なっています。
今回スペシャルな企画だったのは、サックスの上野耕平さんに司会をしていただき、私もナヴィゲーターとして演奏会の進行を一緒にサポートさせていただいたことです。実は上野さんとはこの日初めてお会いしましたが、彼はサックスの腕前はもちろんのこと、トークのセンスも素晴らしく、一瞬で親近感を持てました。トークの打ち合わせは直前の15分間ほど。そして19:00ちょうどに演奏会は開幕しました。
この日演奏される曲はもちろんすべてカプースチン。
トップバッターはピアノの紀平凱成(きひらかいる)さん。テレビでも生演奏したことのある得意の持ち曲エチュード第5番『冗談』にプレリュード11番と24番。カプースチンがプレリュード集で一番難しい曲と言ったという第24番が生で聴ける機会もそう多くはないでしょう。難曲をしっかりとしたタッチで弾きこなし、曲の魅力を聴衆に伝えることに成功していました。
その次に登場した演奏者は角野隼斗(すみのはやと)さん。彼のここ数年のYoutubeにおける無尽蔵の発信は、すでに登録者数が世界に50万人を突破していることでもわかるでしょう。一昨日はエチュード3曲を披露してくれました。
実は、本番直前の角野さんがリハーサルしているのを私は会場の外で聴いていたのですが、彼がカプースチンの曲の合間に指慣らしに弾いていたジャズ風の即興が新鮮に聞こえ、私は思わず練習を終えた角野さんに「今日の本番ではカプースチンの合間に即興演奏を入れたら?そのほうが角野さんらしいしファンも喜ぶかもしれませんよ」などと持ち掛けてみました。そうしたら、本番でエチュード1番と3番の前に気の利いたセンスのお洒落な「前奏」を即興してくれたのです!本当に良かったと思います。
ピアノソロの演奏のあとはサックス四重奏でのカプースチンの演奏。もちろん演奏は上野さんと3人のサックス奏者によるザ・レヴ・サクソフォン・カルテットの皆さんで。サックス四重奏のための作品はカプースチンには存在しないと思っていましたが、メンバーの一人、宮越悠貴さんがピアノのための『24のプレリュード』をサックス4本の編成にアレンジしたそうで、それも、なんと編曲を24曲すべて!やったそうです。これはすごいことだと思います。この日は1番、9番、12番、17番の4曲を披露。知っているはずの曲なのに新鮮に聴こえ、ピアノ曲とはまた違った感動がありました。
次に登場したのは、ピアノデュオのpiaNA=西本夏生さんと佐久間あすかさんのお二人。彼女たちのパフォーマンスは聴衆に大きなインパクトを与えたようです。あまり聴くことのできない比較的新しい作品『カプリチオ』作品146(連弾)、そして2曲目の『ディジー・ガレスピーの「マンテカ」によるパラフレーズ』作品129は2台ピアノで演奏するために書かれた作品ですが、これを1台のピアノで彼女たちがアレンジして演奏するスタイルはこれまでも目にしたことはありました。ただ、今回の演奏で初めて聴いた(見た!)聴衆もいたし、知っていた人でもあらためてこの曲の魅力と演奏スタイルの可能性というものに目を開かれた人は多かったと思います。とにかくアクロバティック(笑)。手が交差するだけではないレベルの激しい連弾スタイルはほかにも見たことはある人もいるでしょうが、演奏中に一人の奏者が弾いている両手の下をもう一人の奏者が2回もくぐる(笑)というのはあまり見たことはないでしょう。また、今回は素晴らしい映像のクオリティで配信もされているので、このあたりは動画で見る醍醐味もありますね。
その次のステージからは室内楽作品で、まずはフルートの大塚茜さんとチェロの金子鈴太郎さんと私のピアノで『三重奏曲』作品86の第2,3楽章を披露。彼らとはもうこの曲では共演を何度も重ねていて、今ではとても息の合う信頼できるアーティストたちです。熱演を繰り広げてくださり、特に第3楽章はカプースチンの音楽の魅力が余すところなく感じられた人も多かったのか、曲のインパクトも大きかったようです。木管楽器+弦楽器+ピアノでこれだけのことができるのか!という感覚を持った方もきっといたことでしょう。
その次に、N響メンバー松田拓之さん、大宮臨太郎さん、坂口弦太郎さん、山内俊輔さんとピアノの高橋希さんによるクインテット「ラ・スペランツァ」の登場。これまたカプースチンの室内楽の名曲『ピアノ五重奏曲』の第1,4楽章を披露してくれました。彼らは特に第4楽章はもう数十回以上も演奏しているということもあり、演奏は練られたものだったと思います。昨日は弦楽器メンバーは(チェロ以外は)立奏で、アクティヴでエネルギッシュな演奏をしてくださり、大きな感動に包まれました。ピアノの高橋さんはこの演奏会のためにアメリカから駆けつけてくださいましたが、重厚で素晴らしいアンサンブルでした。
最後の最後は、前の『ピアノ五重奏曲』で演奏されたヴィオラ奏者の坂口弦太郎さんがヴァイオリンに持ち替えて(!)、私のピアノとのデュオによる『ヴァイオリンソナタ』第1楽章でコンサートを締めました。演奏の途中でヴァイオリンの弦が緩んで一瞬演奏不可能になってしまったというハプニング(滅多にあることではないとお聞きしました)がありましたが、処置を施して演奏を再開してからは最後まで滞りなく集中した演奏をすることができました。坂口さんのまたヴィオラとは違うアプローチによる溌剌とした演奏は本当に素晴らしかったです。
今回はコロナ感染対策万全のホールにお客さんがおそらく600人弱ほど、そしてライヴ配信で聴いてくださった方々もおそらく同数ほどいたとお聞きしていますが、豪華な出演者たちによるカプースチンに捧げた演奏会、天国のカプースチンもきっと聴いてくださったと信じていますし、聴衆の皆様にもきっとご堪能していただけたことと思います。
ライヴと配信、どちらも醍醐味はあると思います。ライヴでは、会場でしか聴けない音というものがやはりありますし、その場の臨場感や生の演奏から生まれる特別な印象やインスピレーションもあります。一方、映像で観られた方は、5台ほどのカメラで映し出された映像もカメラワークも素晴らしいようですので、きっと楽しめたことと思います。アップで映し出される演奏者の表情や演奏する手や体の動きなども近くに見ることができて、ライヴとは違ったメリットもあると思います。
アーカイヴ配信はこの先11/12の23:59まで行うということです。まだ配信チケットを買って観ることができるそうですので、ご興味のある方はイープラスのサイトにアクセスしてみてください。(チケット発売は11日までのようです!)
今年は新型コロナ感染拡大の影響で「カプースチン祭り」も中止になってしまいましたが、このタイミングで素晴らしいアーティストの方々とカプースチンのコンサートができた喜びは大きいです。聴衆の皆さんと一体になれたという経験も大きな収穫でした。まだ世の中の情勢は落ち着かない部分もありますが、コンサート活動の可能性も含めて先につなげていくことができれば嬉しく思います。

本当に素晴らしいメンバーたちでした!(久しぶりの再会に大きな喜び)
演奏してくださったアーティストの皆さん方、企画・運営をしてくださった株式会社イープラスのスタッフの皆さん、そして支えてくださったお客様たちに心より感謝申し上げます。