昨日、大学入試の実技試験の審査員の仕事で菊地裕介さん(彼も大活躍中の若手ピアニストです!)と一緒になり、昼食をとりながら珍しくたくさん話をしました。
チラシを見せてもらったのですが、彼はこの6月に名古屋でベートーヴェンのピアノソナタ32曲を2日間で全曲演奏するリサイタルを開くそうです。ということは、1日にソナタを16曲。午前11時から始めて、全部弾くのに夜遅くまでかかるでしょう。体力勝負でもありますね。
これだけでもすごいと思う人もいるかと思いますが、彼の本心は1日で全32曲を連続して演奏するリサイタルを開きたいそうです! 東京でもそれをやりたいそうですが、どこを探しても、夜間までホールを開けてくれるところがないので困っている(笑)ということ。確かに、午前11時から始めて休憩を数回とっても午前1時半頃までには32曲をすべて弾き終えることができる計算にはなります。数年前の大晦日のコンサート企画で、16人のピアニストが2曲ずつベートーヴェンのソナタを弾く32曲全曲コンサートというのはありました。辻井伸行君も出たので覚えています。菊地さんもそのコンサートに出演したから、それがきっかけとなってもいるのだろうし、横山幸雄氏のショパンのピアノ曲全曲リサイタルにも明らかに刺激を受けたようですが、これが実現したらほとんどギネスものですね。
これまでの常識では、ベートーヴェンのピアノソナタを4曲でプログラムを組んで1回のリサイタルを行う。それを8回こなして32曲演奏するソナタ全曲演奏会という感じでした。そして、それぞれの演奏会の間隔は少し空けるのが通例でしょう。ところが、それを1日で全曲演奏できるピアニストが出る時代となったということです。一昔前までは、ハンマークラヴィア・ソナタ(第29番)1曲演奏するのさえ大変だと言われていました。ベートーヴェン自身は、「このソナタは誰も弾けないだろう」とまで言ったとか。それを考えると、ものすごい進化です。
たしかに、このくらいのことならもう軽くできるということを証明したいと思うピアニストが出ても不思議ではないかもしれません。人類はベートーヴェンのソナタをもう200年も弾き続けてきたのだから、そのくらいの学習効果がないようでは後世の人間としてダメかもしれませんよね。(笑)
そう考えてみると、「カプースチンなんて簡単すぎる!」なんて言われる時代も、きっとやって来ると思います。当然そうなっていくような気がします。