一生演奏を続けていきたい人、そして、それで生計を立てたいと考えている人は、まず音楽の才能と楽器演奏の技術がホンモノでなくてはいけないでしょう。
でも、それだけで足りないとすれば、ほかに何を勉強することが仕事の役に立つでしょうか。どんなスキルが身を助けるでしょうか。
実際に音楽の仕事に関係してくる可能性の高いものを挙げてみたいと思います。
●トークの才能
まずは人前でトークができる才能は必要です。
無言でピアノを弾くだけのステージであっても、本当にその音楽が素晴らしければそれも価値がありますが、やはり人前で堂々と喋れるスキルがあるに越したことはないでしょう。
多くの人を相手にする人は、トークができることは基本です。クラシック音楽家に限らず、ポップスの歌手であっても演歌の歌手であっても、ライヴではトークをします。テレビやラジオに出ても必ず喋ることになるでしょう。演奏会のステージでも、トークを入れるとその人の人間らしい側面がわかったりするので聴衆は喜びます。
喋ることは、少なくとも演奏することよりは楽なはずです。たぶんそうですよね? 経験を積むにつれて、これも熟練してくることと思います。頭の切れる話ができる人も、シャイで口下手な人も、人間的魅力があればどちらも好かれます。自分のスタイルを見つけることです。
●文章を書く力
以前にも書きましたが、文章を書ける能力も大事です。
私は長年、音楽家は作家でないのだから文章を書くことはないし、そんな才能はなくても良いと思っていました。でも、現代の情報や知識が大切な文明に住む私たちには、やはり必要なスキルのように思えます。
今では、誰でもブログを書くようになりました。
少なくとも、書くきっかけを見つけることは容易な時代になりました。
ただ、いろいろ書き散らすのは簡単ですが、きちんとまとめたり、説得力を持って書くという技術を磨けば世界はさらに広がると思います。
特に音大では、論文指導の授業などは少ないので、楽器を専攻している人は大学院に進んでも積極的に修士論文を書こうと思う人は極めて少ないのが現状です。また、大学生は文章を書く機会がかなり少ないと思えます。驚くほど文を書くのがヘタな人が多いようです。というか、おそらく慣れていないのでしょう。
今後、良い文章が書ける人は、音楽家に限らず、いろんな仕事に恵まれるチャンスが増えることでしょう。
●デザインのセンス
これが意外に必要です。
自分の演奏会のチラシや出版物のデザイン、ほか各種の宣伝媒体にも、デザインのセンスが要ります。プロのデザイナーにやってもらうにしても、やはり自分の美的センスがいろんなところで反映されます。
あるいは、人からサインを求められた時には自分オリジナルのサインをすることになるでしょう。演奏家になろうと思っている人は、プロになってから、あるいはCDや本など何か世に出したあとにサインを求められるようになるわけではありません。ピアニストの卵たちでも、例えば国際コンクールを受けると、演奏を聴いていた聴衆から話しかけられてサインを求められることがしょっちゅうあります。外国などではそういうカルチャーがあります。
また、イラストが描ける才能を持っている人も得ですね。自分の本や出版物を作る時にも役に立つことがあるでしょう。とにかく芸術的センスが大事です。
●アピール力
プロになるためには、これも必要です。性格的に目立つ人になれという意味ではなく、自分の良いところを正当にアピールすることが、人前に出ようと思っている人にはどうしても必要です。自分を客観的に見ることができることが大切です。自分をどのように見せるか、ということです。トータルな人間力というようなものが出てしまいます。
それは人それぞれに違って良いと思います。演奏スタイルにオリジナリティがあるとか、あるいはトークの面白さ、ヴィジュアルなど、いろんな強みを持っていることが考えられます。
あるいは、良いものを世に出したいという気持ち。多くの人を説得したり、あるいは自分が発見して、皆がまだ知らないようなものを、人にもわかる形にして見せる技術も必要でしょう。一般的な職業から見たら、音楽家はかなり特殊で少数派です。ほとんど理解されない部分のほうが大きいと思います。だから、普段からアピール力を身につけることが大事だと思います。
●語学力
この能力も一体なんのために身につけるのか、よく分かっていない人が多いように思われます。大学でもいくつかの外国語を選んで勉強する人は多いと思いますが、ただ単位になるからとっているという人もいるでしょう。
やはり最低でも英語はなんとか使えるレベルまで早いうちに持ってこなくてはなりません。
どうすれば外国語が身につくかと言えば、どうしても勉強しなければいけない状況に身を置くこと。これに尽きます。留学することも良いでしょう。あるいは外国で何かを成し遂げようとか、世界的に活躍しようとかいう目標を持つこと。
今の時代、まったく外国にも行かず、外国人とも接することもなく生きて行くのは悲しすぎます。世界は決して日本だけで完結しているわけではないのですが、この日本という国は周りが海に囲まれているということもありますが、本当にある意味孤立している感があります。若者であっても、国際情勢にもまったく疎いとか、そういうのでは本当に困ります。
語学力と言っても、ただ外国語が堪能なだけではなく、視野を広げること、偏った物の見方から脱することなど、世界を知ることで自分自身が大きくなります。これは、そのような気持ちを持って生きて行くのと考えていないのとではすごい差ができるということです。
本当に多くの人に本気で外国語を学んでほしいと思っています。
少なくとも英語に自信が持てるレベルまできた人は、音楽をやっていても、今後必ず何かに役に立っていくということをお約束したいと思います。