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次のCD録音に向けて


ブログを更新をせず1か月以上も空いてしまいました。(2月はあっという間に過ぎてしまい更新できませんでした。)


大学も春休みに入りました。
この一年は後半のほうが忙しかったように思います。ようやく新年度直前の休みに入って、私は生徒たちに「この時期だけはレッスンを休ませて」などと言っていますが、個人的には実は次のCD録音の準備が佳境に入っていて1日平均7~8時間も練習している日々を過ごしています。この齢でよくそこまでやるなと思う人もいるかもしれませんが(笑)。本当はエネルギー消費量から言っても正味4~5時間で抑えたいところです。まあそんな消耗戦の感じはありますが、なんとか休息中には充電を続けながら生きています。大学の仕事がほぼ一年を通じていつも忙しいので、CD録音はもうこの時期にやるしかないのです。


今回の収録はオール・カプースチンものとしては通算9枚目のCDになります。オクタヴィア・レコードさんのリクエストでCDには必ず60分超の収録曲を入れることになっています。たとえ音数が他の作曲家よりはるかに多いカプースチンであってもです(笑)。このカプースチン全曲録音シリーズではバランスの取れた作品配置を心がけていますが、演奏する側の消耗度から言っても、今振り返ると『5つの異なる音程によるエチュード』の入った前作(ピアノソナタ8番、9番ほか収録)は一つの頂点だったかもしれないと思います。あのCDは本当に多くの人に聴いてほしいと思っています。今回収録曲にも世界初録音の楽曲がまた含まれる予定です。


カプースチンの曲の練習が大変な理由は、もちろん超絶技巧のイメージが強いのでそういう意味なのだろうと思われる人も多いでしょうが、実際に苦労しているのはそこではなくて曲の「解釈」というか「理解」の部分です。例えばロマン派などスタイルや作曲家の意図がはっきりしている楽曲であればそれほど苦労はしないのですが、新曲、特に現代曲の場合は作曲者の意図が必ずしもわからないことがあります。極端な場合は1つか2つの音のことで1週間も悩んだりします。(それが誤植であることが判明した場合はまだ救いと言えます(笑)。)


結局、新曲に良い解釈を与えて演奏するためには、その演奏者がどれほど多くの音楽に通じているかということが左右するように思います。特にカプースチンに関しては、すでに存在するピアノ音楽のすべて、またロシアの音楽はオペラや他の器楽曲など含めて広範に知っていることが要求されているように思います(カプースチンが無意識にも影響を受けているので)。その上で80年代以降あたりまでの新しい音楽をどれだけ知っているか(こちらは作曲者が意図的に取り入れている可能性あり)、それでようやく作曲者の考えがわかるという気がします。最終的に演奏として1曲を仕上げるにはそれはそれはけっこう大変なもので、本当に悩む瞬間が多くありました。


またテンポの問題があります。要求されているテンポと少し違っただけで曲のイメージがまったく変わりますし、ピタッとはまったテンポで演奏して初めて聞こえてくる音楽があるのです。これはカプースチンのメトロノーム指示をかなり深いところまで洞察しないと見えてこないものです。だからしょっちゅうメトロノームは必要だし、その上で曲のどの部分ではそのテンポを外れてルバートして良いのか、あるいはドラムの規則的なビート感を背景に感じて弾くべきかなど、かなり長い期間その曲を弾き込んでこないと見えてこないことがあります。新曲を解釈する場合の一つのよすがとなるのは、カプースチン自作自演の他の曲を楽譜を追いながら聴くことが一番良い勉強になります。ただ、それでも目の前にある曲はそれとは違う新しい音楽なので、もうそこから先は演奏者の力量によるものだと思います。


とにかく私はカプースチンのレコーディングを続けてきて何が良かったかと言うと、その音楽からたくさんの新しい視点やアイデアを学ぶことができたことです。ジャズ的なものはクラシックとは別のものだと認識している人もまだ多いかもしれませんが、音楽表現や解釈に関しては他の作曲家の作品を考察する際に生かせる部分も多く、その意味でやはりカプースチンは紛れもないクラシック音楽作曲家なのです。

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