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海外における勉強の意味

今回出版された本を読んであらためて感じたのですが、辻井伸行くんへの指導においては、やはり私の外国での経験や学んだことの影響は強かったのかな、と思いました。これはほとんど無意識だったのですけれども、今回一連の取材を受けながら明らかになってきたことでした。意外にもその部分が伸くんの性格とピッタリ合ったのかなと思います。確かに伸くんとお母さんのいつ子さんは、かなり初期の段階から、世界に羽ばたくというか、意識を海外にも向けていたようなところがあったと思いました。

この本には書かれていませんが、私自身も北海道の旭川という、田舎といったら怒られますが、地方に生まれたこともあって、外の世界、特に都会や海外というものに小さい頃から強く惹かれていました。なぜか小学校に入ってすぐ父親に新品の英語教材を与えられて英語を勉強し始め、中学生になったら、これもなぜか天の啓示によりドイツ語の勉強を始めました。中学生の3年間はNHKのテレビとラジオのドイツ語講座を欠かさず聴き、特にテレビ番組のほうは毎週楽しくて仕方ありませんでした。たしか3月頃に番組が翌週から新しいプログラムに変わるという時に、大好きな馴染みの外国人講師が来週から出てこないということを知って一日中泣いてしまうほどの入れ込みようでした。
なぜそれほどドイツ語に夢中にならなければならないと強烈に思ったのかは未だに不明ですが、大学を卒業してすぐウィーンに留学することになったのだから不思議です。その時は考えてもいなかったのです。

伸くん親子も、早くから世界というものを意識していたように思います。普通の子供はそんなに積極的な行動はあまりとらないかもしれません。何もないところに無理をしてまで行く必要はないのであり、英語留学を目的として行くことさえ億劫に感じる人もいるでしょう。日本人は、よほどのことがなければ、自分を試すために、あるいは経験を増やすために若いうちに外国に行きたいと思う人、また行かせたいと思う親は少ないかもしれません。
でも伸くんはロシア、台湾、アメリカ、ヨーロッパはフランス、オーストリア、チェコ、ポーランドなど、中学生までにひととおり世界の各地で演奏するという経験をしました。それも、もちろん演奏のお仕事として招かれて行ったのではなく(まだ子供でしたから)、ある意味、何もなかったところにそのような話をわざわざ自分で作って行ったわけです。

現在でも、海外で活躍するクラシックの日本人演奏家は、ほぼ日本国内のみで活躍するアーティスト、あるいは外国人演奏家の国際的な活躍率に比べて恐ろしく低いことを考えれば、辻井くんの活躍は大きな誇りにして良いものだと思います。でも現在の彼があるのは、やはり小さい頃からの心がけも大きかったような気がします。

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