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チェルニーの練習曲とは

今月、「21世紀へのチェルニー」という本が発刊されました。著者は、音楽、特にピアノに関する著述や取材で活躍される山本美芽さんです。チェルニーの練習曲は、日本でのピアノ教育の現場ではほとんど機械的に使われ続けていますが、この習慣に一石を投じるという試みです。確かに、チェルニーの教本は異常とも思える普及度ですが、すべての人が効果的に使っているかどうかは常々疑問でした。また、練習曲というものがどれだけ本当に必要なのか、など、チェルニーから始まってさまざまな根本的な問題や課題について考えさせられる著作です。

この本では、多くのピアノ演奏家にも取材した上での事実に基づいていますから、ピアニストたちが練習曲、特にチェルニーとどのように取り組んできたのかということがわかり興味深いです。考えてみれば、私自身も子供の頃、チェルニーは「110」番から「100番」→「30番」→「40番」→「50番」まで全部やらされて何も文句を言わなかったのですから、従順というか、異常ともいえますよね。まるで問題意識を持たない純粋な子供だったのか…。

面白いことには、一線で活躍している演奏家たちには二種類あって、チェルニーを真面目に受け入れてよく練習したというパターン(しかし必ずしも1番から順番にすべてをクリアーしていくというやり方ではありません)、もう一つは、練習曲というものを最初から練習曲とみて理性的に効果的に使ってきた人、この二種類に加えて、あくまで音楽的要求を重視して練習曲を必要としない境地に早い段階でなった人、などがいるようです。チェルニーやハノンを使ったという人は、私が思っていたよりは意外に多いという印象を受けましたが、使って成功した人たちは皆、練習曲にかなり積極的な意味合いを持たせて使用していたということが共通していると思いました。

私もピアノを弾くためにはなんらかのエチュードは必要だと思っていましたが、各人それぞれに合った使い方があることは事実でしょう。プロの人は基礎練習に十分な時間を使うことが不可欠だし、実際に手や指を正確に動かす時間や体力(筋力)を衰えさせないための工夫が絶対必要です。そうでなければピアノなど弾き続けられるものではないでしょう。だから、ある程度の年齢になってからピアノを始めた人は、子供の頃からやっている人と比べて指が動かないのは普通だと思います。しかし私が不思議なのは、ときどきアマチュアの人でメカニック的にほとんど問題のない人がたまにいらっしゃることです。彼らは練習曲を毎日真面目にやっているとは思えません。しかし、指は正確に速く動くし、ひょっとして弾けない曲はないのではないか、という感じがするのです。次は、彼らにインタヴューを試みなければならないかもしれません。

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