作曲家自身が具体的にどのように楽譜を監修したか、ということについて書いておきたいと思います。
今回は昨年に引き続き再び2冊同時に編集・出版したわけですが、まず最初に底本を決めた上でそれに運指の書きこみをお願いしました。(2月) それと同時に、作曲家自身がこの200頁ほどの楽譜の原稿すべてに目を通し、気がついた間違いは直し、さらに空きスペースにペンで五線譜を丁寧に書いて、そこに改訂した音符やリズムを書いたりOssiaを書き加えたりして送り返してくれました。(3月) それだけ丁寧に修正が入った楽譜でも、それがプロの手によってほぼ正しく浄書されたのちに、2冊合わせてざっと1000箇所ほどは小さなミスや編者が訂正・加筆をすべき箇所、そして音や運指の細部等に作曲者にもう一度質問せざるを得ない曖昧な箇所が残ります。楽譜を見ながら全曲を通して何度もピアノで弾きこみ、出版社・浄書屋とともに細部まで校正を何度か施したのちに、最終的に作曲家へもう一度質問付きの楽譜を送りました。(5月) 作曲家はすべての質問に答えてくださるのですが、さらにこの時点で重要な書き替えが何箇所も(!)増えて戻ってくるので、再質問が大幅に増えました。(6月) 最終的にはすべての問題が解決するよう、その後メール等での大変込み入ったやり取りがあってようやく完成。(7月) 私自身もすべての曲を録音していたことで、細部まで曲をくまなく知っていたからこそこのスピードで楽譜を2冊も同時編集することが可能だったわけですが、一般的に考えると異常なペースだったのではないかと思います。
それはともかく、カプースチン氏のユーモアによって大変な仕事の苦しみは軽減されました。校正譜には、彼が書いた赤ペンがたくさん入ってくるのですが、ロシア語(簡単なものは英語や伊語も)による注意書きに混じって、ところどころ日本語のカタカナまで入れてくれるのです。(彼特有のギャグでしょう。) それがなんとも可愛い!かなり頑張ったらしく、ところどころ「ひらがな」までも混じっていました。なんとも嬉しいやら驚きやらで、感動しました。