考えてみれば、ピアノ曲のレパートリーほど常に変遷し続けているものもないのではないかと、ふと思いました。現代作曲家の新曲が新たに増えていくという当たり前の現象に加え、200年前に作曲された曲が新たにこの時代に復活してくるとう現象もあります。
40~50年ほど前に作曲され、埋もれていた作曲家の作品が少しずつ知られるようになってくる、というのはよく考えられる現象でしょう。聞いたことのなかった作曲家の名前が時とともに知られ始め、気がつくとすでに若い人たちも当然のように知っているということがあります。
また、もともと存在していたものなのに、ある時まで誰も知らず、なぜかある時期に突然ポピュラーになっていくという現象もあります。
全然関係ありませんが、「アルパカ」や「カピバラ」という動物の名前を知らない人は今ではいないかもしれませんが、こんなのも、ごく最近になってポピュラーに知られるようになった動物だと思うのですが…。ちなみにカピバラのほうは、我が家でも数年前から可愛がっています。(意味不明)
さてそんな中、カプースチンは現代作曲家の中でも急速に有名になった稀有な例かもしれません。最近は大学の私のレッスン室の真上の部屋からは、毎週決まった時間に2台ピアノの「マンテカ パラフレーズ」Op.129が激しく聞こえてきますし、先日も、連弾曲の「シンフォニエッタ」Op.49の楽譜の入手をどうしたら良いかの問い合わせがまたありました。この曲は、予定ではいずれもう出版されると思います。
カプースチンの「変奏曲」作品41を、今年のチャイコフスキー・コンクールで2位になったソン・ヨルムさんが弾きました。その見事な演奏をYoutubeで観ることができるまでになってしまったのですから、時が音を立てて流れているのを感じますね。
そういえば辻井君も、ちょうど先月彼女と共演したはずですが、彼もカプースチンのエチュードを14歳で弾いたし、二人は現代の若手ヴィルトゥオーゾです。
ピアノのレパートリーでは、近年になって編曲モノや変わり種の作曲家の作品など、新たに出てきたものもありましたし、楽譜も新しい曲がどんどん出版されたりしていますが、ちょっと不思議な現象としては、200年前のチェルニーやフンメルのピアノ協奏曲なども現代になって普通に聴けるようになったということです。フンメル、チェルニーといえばベートーヴェンからショパンにかけての時代です。200年も経ってからいきなり登場しているわけで、これはバッハの曲が100年以上経って発掘されて真価が認められたとか、マーラーの曲がマーラーの死後50年経ってから復活したとかいうのと比べてもちょっと異常な感じはします。現代というのはきっとそういう時代なのですね。埋もれていたものがいくらでも復活する可能性があるということがわかります。
これはピアノのレパートリーという特殊な世界だけのことなのか、ほかにも似たような分野があるのかどうか。あるとしたら、古いものが尊ばれる芸術の分野でしかあり得ないでしょうが…。
ただ、ピアノのレパートリーは無限に増え続けてはいますが、やはり時間とともに淘汰されていくし、飽きられるスピードも早い時代だから、よく演奏される曲=未来に残っていくレパートリーということで考えると、ピアノ曲事典は少なくとも10年ごとに書き換えられなければいけないでしょう。内容は10年ごとにかなり変わっていくと思います。ただ、こんなに膨大な数のピアノ曲があるにも関わらず、世界のピアニストやピアノ弾きのレパートリーは、意外にも同時代においてはかなり共通であるのも不思議といえば不思議ですが。