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これからのピアニストのあるべき姿とは


今年もあと3日を残すだけとなりました。
今年一年を振り返ってみて、ピアニストのあり方というものについていろいろ考えていたことを思い出しました。最近の傾向とか今後の展望も含めて、今思っていることを少し書いてみたいと思います。これは11月にドイツでフランク・デュプレに会ったことも少し関係しているかもしれません。
ただし、これは私がスタンダードなクラシックピアニスト像を決して否定しているわけではないということだけは誤解しないで読んでいただければと思います。

去年から今年はなぜかG. ガーシュウィンの作品を聴いたり言及したりする機会が多かったのですが、先日のフランク・デュプレも10月にドイツのNDRラジオフィルハーモニーと大植英次さんの指揮でガーシュウィンの『ヘ調の協奏曲』を弾いていたのをストリームで聴いて、いろいろ思うところがありました。彼は第3楽章のカデンツァ部分で自作の即興を入れていたのですが、それはなかなか素晴らしく、『ラプソディ・イン・ブルー』やバーンスタインの曲の有名なメロディを挿入したりしてよく考えられたものだったと感じたのですが、その後本人に会った時に聞くと、あれはほぼ即興的に弾いたものだと言っていて少しビックリしました。また、彼が同じコンサートの最後にアンコールでガーシュウィンの『Someone to Watch Over Me』をジャズ風アレンジで弾いていて、「あれは楽譜に書き下ろしたのでは?」と訊くと、それについても「もちろん楽譜には特に書いていない」とのこと。自分で適当にハーモニーなどをつけて弾いただけだと言っていました。素晴らしいソロだったのですが。

デュプレとはすごく会話が弾みました!


ガーシュウィンのピアノとオーケストラの作品では、もちろん『ラプソディ・イン・ブルー』が一番有名ですが、これまでにもこの曲でジャズ・ピアニストがカデンツァ部分を即興演奏するのは何度か聴いたことはあります。ただ、例えばイギリスのピアニストWayne Marshall(ウェイン・マーシャル)さんなどの演奏を最近聴いていたのですが、曲中のカデンツァの規模がけっこう長くて即興演奏のスケールも大きかったのです。動画の演奏ではピアノソロのカデンツァを大きく2箇所に入れていましたが、音楽センスも演奏も本当に素晴らしく、今まで聴いた中で最も感銘を受けました。ちなみに彼はガーシュウィンの『第2ラプソディ』なども「弾き振り」しているのですが(これも動画あり)、これでクラシックピアニストを標榜しているのですから、時代も変わったものだなと思います。

Wayne Marshallは素晴らしいオルガニストでもあり、しかも立派な指揮者でもあります。それでいて、例えば最近アップされたらしいロンドンのウィグモアホールのコンサートでは、ピアニストとして最初から最後まで即興演奏をするという体裁で、それも聴衆やファンたちからその日に寄せられたランダムなリクエスト曲の紙をその場で一枚一枚引いて、そのメロディに基づいて即興演奏をしていくというコンサートだったので驚きました。しかも、簡単な伴奏付け、あるいはジャズ的な即興というものではなく、フーガのようなスタイルで演奏したり、無調や複調性などを使ってかなり複雑なテクスチュアを入れていきます。それでいて全体がきちんと統御されていて、どの即興演奏も芸術的と言って良いレベルに仕上がっているように聴こえました。きっと彼がオルガニストとしてのレパートリーや対位法などのセンス、それにやはり作曲能力も高いのだと思いましたが、一人のピアニストのあり方としても、彼を見ていると今後さらに多様なものが出てくる可能性もあると感じられました。

ガーシュウィン、バーンスタイン、カプースチンなどの音楽は、クラシックでもジャズ寄りの要素があるので即興演奏と親和性があります。実際に、デュプレはカプースチンのソロ曲の合間にその場の即興演奏でつないでいく遊びを取り入れて演奏したこともあるそうです。(日本のデュプレのファンで、それをやっていた彼のコンサートを知っている、と言った人もいました。)

今年の4月に行われた「カプースチン祭り」では、第3部ステージでまさに紀平凱成君がそのようなことをやりましたが聴衆には大好評でした。また、その約2年前には「カプースチン追悼コンサート」でも、角野隼斗(かてぃん)さんがそのような試みを浜離宮朝日ホールのステージでやって見せてくれたことも思い出しました。

デュプレとも「そういうふうに、クリエイティブなこと(即興演奏など)と親和性があるクラシックの作曲家ってほかに誰がいるでしょうね~?」などと話していたのですが、彼は上に挙げた3人に加えて、「実は最近、ガーシュウィンと同時期の埋もれていた重要な作曲家を見つけたんだ」とか言っていました。おそらく彼はその作曲家の作品を今後紹介してくれることでしょう。だから、現代でもクラシックから出発してまだまだ新しい世界を広げられる可能性がいくらでもあるのではないかと感じました。若いアーティストたちには特に期待をしてしまいます。


少し長くなりましたが、そんな新しい可能性を私自身も模索していきたいと思っていて、「カプースチン祭り」のようなイベントを企画したり、今後も新たなコラボの可能性などを多くの人と一緒に創っていきたいと思っているところです。

来年3月31日の「カプースチン祭り2024」には、再び紀平凱成(きひらかいる)さんが登場します!

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