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カプースチンを魅力的に弾くコツとは??


最近は普通にカプースチンを弾く人がたくさんいることが本当に嬉しいです。
クラシックしか練習してこなかった人が初めてカプースチンに挑戦する場合、わりとすぐにカプースチンに慣れる人もいますが、なかなか自分が弾きたいと思っているようには弾けないということもあるようです。

私もカプースチンのレクチャーなどをたくさんやってきましたが、これまでにあまり言わなかったことを今日は書いてみたいと思います。

皆さんすでにご存知のように、これまでよく言われてきたのは、カプースチンは初期のジャズはもちろん、モダンジャズやロックやラテン音楽、現代のポピュラー音楽にも影響を受けているので、そのようなテイストを加味して弾かなければいけない、というようなことかと思います。もちろんその観点も大事ですし、例えばカプースチン特有のジャズロックのリズムに乗って弾くことや、スウィングリズムの要素やそのジャンルの音楽特有の雰囲気を出して弾くようなことも良いとは思います。それに新しさを感じる人もいるでしょうし、まずそういう感覚を身につけるべきであることも確かでしょう。

ただ、皆さんがよく知っているカプースチンの曲はきっとごく一部ではないかと思います。初期の作品と言って良い『8つの演奏会用エチュード』や『24のプレリュード』、また90年代頃までに作曲されたソナタや小品の類、室内楽曲などがおもなレパートリーであることでしょう。でも2000年以降に作曲された傑作も意外に多いですし、それ以前の作品にも難解なものや、一見して表現や理解が難しいと思われるものもあると思います。そういう作品すべてをひっくるめて、カプースチン演奏に根本的に大事なことがあります。なぜか曲の良さがうまく出せない、聴衆に曲の良さがきちんと伝わらない、というような感覚。あるいは自分でもよくわからず弾いている、というようなことがあるのではないかと思います。

私がこれまでカプースチン作品をたくさん弾いてきて強く思うのは、実はカプースチンも他のクラシック作品と同様に曲の内容を研究することが重要だということです。モチーフやテーマについての作曲家の意図、また曲の構成がどうなっているかを考えたり、それによって小さな楽節やフレーズをどう捉えるか、という分析(アナリーゼ)をすることが意外に大事なのです。というのは、作曲家はそれらをすべてわかって作曲しているわけですが、演奏する人は必ずしも楽譜どおりに正しく弾けるようになったとしてもそれを読み取れるとは限らないからです。何ヶ月もその曲を練習して、暗譜して細部まですべて知っているように思えても、アナリーゼ的な視点を持って曲を紐解かないと自分演奏で曲の良さをどうしても出せないということがあります。

少しだけ具体的に言うと、曲のアナリーゼをしていないと、例えば表面的にはノリ良く弾いていても大事なモチーフが全然聞こえないとか、大きなフレーズが聴衆にはわからないとか、どこへ向かっているのかわからない、構成がさっぱり見えない、曲が何を言いたいのかが見えない、などということが往々にしてあります。例えばバッハのフーガなどにしても、テーマがどこの声部にどんなふうに出てきているかを奏者が理解していない場合、そのテーマは絶対聴こえてこないし、フレーズも見えてこないし、多声的な曲の面白さや構成や曲の性格さえ見えてこないものです。

カプースチンでも同じです。カプースチンの場合は、これまでのクラシック音楽では使われてこなかった語法や構成法が確かに存在するので、それを意識して知っておく必要もあります。それは例えば32小節形式におけるAABAやABABのような構成の中に現れたり、8小節ごとのハーモニーや語法の定型的な進み方とそれに対しての作曲家独自の工夫など、こういうことをまったく無視すると、強弱や速度法に関する部分でも大きなニュアンスの違いが生じるのです。カプースチンは時にわざと人を煙に巻くような書き方をすることがあるので、ただ弾いているとフレーズのどこまでが大きな区切りなのかがわからないことがよくあります。

あるいは和音の中の声部のバランスや音色についてもそうです。大事なモチーフが意外な声部に隠れていたり、ソプラノがただのメロディという以上にもっと大きな重要な意味があるのにそれに気がついていなかったり…、そういうことがあっても聴衆に正しく伝わらないものです。曲をよく理解していることで、それが音色に現れたりもするし、テンポの扱い方などに反映することもあります。

もちろん「正しく伝える」というのは方法が一つしかないわけではなくて、その奏者が解釈した形でその音楽が表現されれば良いのです。曲の良さを伝える方法は何通りもあるでしょう。でもそれがもっと真実に迫っていたり、内容が深ければ深いほど、また作曲者の意図を想像したりできれば、さらに多くの聴衆に訴えかける演奏ができることにつながることは間違いありません。その演奏に説得力が出てきます。

カプースチンの音楽のことについて語ったつもりでしたが、これは他のクラシック音楽家の作品を演奏する際にも当てはまります。もちろんバッハやベートーヴェンやショパンを分析することもそれなりに知識が必要ですが、カプースチンの音楽では新しい知識が必要になることに加えて、自分のそれまでの多様な音楽経験を武器にして音楽を読み解くセンスも必要だと思います。どうしてもあるレベル以上の魅力のある演奏ができないと思う人は、ぜひその点も考えてみてください。

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