音楽雑誌「ムジカノーヴァ」で『作曲家別エディションの選び方』という特集が組まれていて、今月号では岡田敦子先生による「ロシア近・現代編」も入っています。副タイトルに「ムソルグスキーからカプースチン」(!)という、なんとカプースチンがついにロシアのピアノ音楽史の中で普通に語られる時代が来たのだなあ、と感慨を新たにしました。
御論考の中でも語られているように、ロシア作曲家の楽譜の出版事情や普及の仕方はやや特殊です。エディションは選ぶほど多くないし、その楽譜には指使いが書いてあるものなどほとんどないし、ミスプリントかどうか判明しない音などまだたくさんあります。現在では、全音や春秋社など国内版もかなり頑張っていますが、とにかく未だに手に入りにくい作品が多いことは確かです。
どの作曲家も似たようなものではありますが、典型的なのはやはりメトネル。今ではかなり多くの演奏家に取り上げられるようになってきましたが、楽譜を手に入れるのにはそれぞれ皆さん苦労されているのではないでしょうか。たまたま奈良希愛さんのブログで知ったのですが、彼女はメトネルの2台ピアノの作品の楽譜をゲットするのに3万円近くも払ったとか…、楽譜を得るためにはそれほどの情熱が必要な場合もあります。
メトネルについては、音大の学生達からもときどき訴えがありますね。楽譜が手に入りにくいと。ドーバー版の「おとぎ話」集(第3巻)がどうしてももう手に入らない…とか。まず考えられる店頭での入手やネット経由では全然ダメ。まだまだ口コミ情報がものをいう段階ですが、とにかく世界レベルでの楽譜のさらなる普及度が上がるのを待つしかないのですね。これ自体が、作曲家の認知度に関係しているとも言えるわけで、やはり作品を良いと思う人が頑張って広めていかなくてはいけないのでしょう…。国内版楽譜も、メトネルで私がアクションを起こしたのは2001年。高久先生に解説・校訂協力をお願いして1冊めの「忘れられた調べ 第1集 作品38」は無事に全音から出版されました。しかし、続く「メトネル ピアノ作品集」は、忙しすぎる高久先生からの解説原稿は5年以上経った今も未だ届かず、これも現在の状況では完成には程遠いようです。なんとかしなくてはならないと思っています。
クラシック音楽の場合、その作曲家の音楽が幅広く浸透していくためには、現代ではもう楽譜の普及にかかっていると感じています。前衛作曲家でもたまたま楽譜が出版されていればもう定着した作曲家と見なされますし、逆に、素晴らしい作曲家なのに楽譜が手に入らなければ誰も演奏しないし、誰も取り上げてくれないわけです。この問題は、ロシア作曲家やその周辺の近現代作曲家には特に大きな問題のように思います。