ようやく自分の手元にもCD新譜が届きました。

このCDの解説は高久暁(たかくさとる)さんによるもので、日本語と英語でとても詳しく書かれています。カプースチンが日本に普及した当初からこの作曲家について書かれている高久さんならでは視点が満載です。2000年にカプースチン自作自演盤が出た時に最初のライナーノートを書いたのも彼で、私はその時それを読んで「へえ~」などと言いながら勉強していたくらいです。要するに、私などよりもずっと早くカプースチンを知っていた方です。
おまけで、今回のCDには私自身が冒頭に書いたコラムも収載されています。
2017年から始めたカプースチン全曲録音シリーズ、今回CDは第4弾となりますが、一つ前の第3弾では『ピアノ協奏曲第5番』に加えてピアノソロ曲として『10のインヴェンション』と『カプリチオ』という珍しい曲を録音しました。
実はそれらの作品はそれまで全然知られていなかったもので、おそらく批評もコメントもできない類の作品だったことでしょう。もちろん私自身も知らない作品で、録音することを決めた後、実は「はたしてこの作品が理解されるだろうか?」「川上さんは気が狂ったのではないだろうか、と思われるのでないか?」などと思っていました。それほど、カプースチンの音楽をよく知っていると自負している人たちにも衝撃的な作品だと思ったし、自分自身も大きな衝撃を受けました。(この2作品は、ずいぶん以前にカプースチン自身が、私とのメールの中で「風変わりな」作品だと語っていました。)
ただ、現在のところ、そのような感想は誰からもまだ頂いていませんし、何の評価もされていない(あるいは聴かれていない?笑)ような段階だと思います。その点で、今やカプースチンを演奏する人やカプースチン仲間たちはたくさんいるものの、その音楽について深く議論したり語ったりできる人はあまりいなくてまだ寂しい段階ではあります。私自身ある種の孤独を感じてはいるのですが、そんなことを言っている場合ではないので、とにかく次の第4弾CDを録音したというわけです。今回は比較的多くの人にカプースチンの良さを理解してもらえるのではないかと思っています。何と言っても、あまり知られていなかった『ピアノソナタ第8番』がこれほどの名曲であったということと、また書法は難解ではあるものの、ヴィルトゥオジティに満ち溢れ演奏効果満点の『ピアノソナタ第9番』の良さを再発見していただけるのではないか、と期待しています。
先日、ある大手放送局のディレクター氏と話していた時に、ピアノに造詣が深い彼が「21世紀にかけて出てきた現代作曲家で、プロの演奏家たちも含めて皆が普通に演奏するようになって定着したのはリゲティとカプースチンだけだよね」と言っていたのがとても印象的でした。 どちらも現代作曲家とだけ認識している人は多いと思いますが、その音楽について語ろうとすれば、クラシック音楽の歴史すべてと、20世紀あたりから出てきた他ジャンルの音楽についての知識を総動員させる必要がありそうです。また、これからの音楽の発展が一体どのようなものになっていくのかを考えていくきっかけにもなるのではないかと思いました。