ピアノは楽器の王様と言われるだけあって、1台でメロディと伴奏が自由に演奏できるし、1人で複雑なリズムを弾くこともできます。また、オーケストラやビッグバンドのような響きを模して1人でスケールの大きな演奏をすることもできます。ピアノでできることの可能性は幅広く、音楽的にも無限大の発想ができるので、才能ある多くの作曲家が時代を超えて夢中になってきたということが理解できます。
現代では、ピアノを弾く技術は世界を見渡してもすごく高くなりました。コンクールの数も半端ではないレベルです。ピアノが上手いだけでも本当はすごいのに、それだけではなかなか注目されないというか、難しい曲が弾ける技術もあり、独自の音楽感性も持っており、その上にプラスアルファの何らかの魅力を出せなければ目立たない、と言われるほどピアニストのレベルは高いという時代です。
ピアノ曲やピアノが活躍する曲(協奏曲など)の作曲も、この数百年間ずっと途切れずに続いています。現代においては、先日のNHKの「クラシックTV」での若手たちによるパフォーマンスもありましたが、魅力的な独自のピアノパフォーマンスのできる人たちが多いことがわかりますし、クラシックと言っても現代ではいろんなジャンルが自然にミックスして新しい音世界やスタイルが確立されていくのだろうということが想像できます。
もちろん大作曲家としては、カプースチンのようにあからさまにジャズとの融合を最初から意識して成功した例もありますが、現代の音楽にはこれまでの時代が経験してきた様々な音楽ジャンルすべてが影響していくものと思われます。だからどれほど多くの音楽を知り、新しい音楽を取り入れ、そしてその中に自分の個性を入れていくかというあたりが勝負でしょう。
最近ピアニストとしてデビューした、カプースチンつながりで私が指導するようになった紀平凱成君という存在がいます。彼はピアノ弾きというよりも、作曲家として注目して見ると違った面が現れてきます。彼は例えばカプースチンの曲でもきわめて難解で高度なテクニックを含むピアノ書法を好むようなのですが、自身の作品にはそれを超える部分さえすでに見られる20歳のコンポーザー=ピアニストです。
ちょうど来月に彼のフルアルバムのCDが出るので下にタワーレコードの予約ページのリンクを張って紹介しておきたいと思います。収録曲はほぼ自作とカプースチンの楽曲のみという変わった(というかそんなアルバムは初めて?の)内容です。
紀平凱成CDニューリリース『FLYING』
彼の自作を聴くとわかりますが、やはり現代人らしくすごく広い音楽ジャンルの影響が背景に見てとれます。これを分析するのはおそらく簡単ではなく、ただ、この音楽はジャズやロック、ラテンはもとより、バロック以降のクラシック、ビートルズやカプースチン、そして日本の演歌からアニメ、ゲーム音楽というものがなかったら存在していない音楽であることは間違いないです。そしてそこにプラスの要素として紀平凱成の(作曲の)個性がはっきり入っているのがまた驚きなのです。ぜひ多くの人に聴いてほしいと思っています。(発売日はまだ1か月ほど先ですが…)
ピアニストが演奏家としてだけ活躍した時代からまた時代が下り、現在では世界を見渡してみると作曲(即興演奏)がある程度できるピアニストも多くなってきているように思います。また、その活動の形態も一人ひとりが違ってとても多様ですし、さらには音楽以外の芸術分野にも才能を表すピアニストもいます。マルチな才能を持ったアーティストが増えているということでしょうか。
現代ではピアニストたちもおそらくそのようにクリエイティブな方向に生き筋を見つけて活動していく人が多く現れてくるのではないかと思います。新しいさまざまな現象の中に、今後も価値のあるものを見つけていきたいと思っています。