
とても面白い本です。
「バイエル」は、ピアノの初歩の手ほどきの教材として長らく日本で使われてきたけれども、本当に多くの人に長年愛されてきたというバイエル像と、ある時期から次第に貶されてきたバイエル像。今、ピアノ指導者はバイエルをどう捉えたら良いのか。さまざまに編集されている「バイエル」は、今でも売れ続けている楽譜の一つであることは間違いないはずです。
バイエルという作曲家は誰なのか?
この本を読めば、一体バイエルとは何だったのか?ということがとても深くわかりますし、なにより本の構成が見事です。推理小説を読んでいるような謎解き的な面白さを演出しているところが素晴らしい。バイエルでよくぞここまで研究をしてくださり、多くの謎を解明してくれたことか。まさに本のタイトルも『バイエルの謎』(安田 寛著 音楽之友社)。誰も知らなかった事実を、この本でかなり明らかにしてくれたと言えるでしょう。
この本が出たお陰で、少なくとも今後は皮相なバイエル議論だけはなくなることと思います。内容の種明かしをしたいほどですが、そうすると今後の読者に謎解きをする楽しさがなくなってしまうので言えませんが、ただ内容にはなかなか深いものがあると思います。
最後のほうで、これまで誰も解きえなかった「バイエルがなぜ多くの日本人に愛されてきたか?」という結論のようなものを導き出しているところにも感動しました。まさかそこまでの洞察がなされるとは…。バイエルの謎解きをしながら、さまざまな他の問題にも関心が移っていきます。ここまで詳しく調べてくださった著者には心から感謝です。やはり、何かを知りたいと思ったらここまでやらなければいけないでしょう。