先日リヴァプールから帰ってきたばかりの辻井伸行君ですが、向こうではラフマニノフの『パガニーニ狂詩曲』とグリーグの『協奏曲』でコンサートとレコーディングを終えて帰国したばかりで、もうすでに新たなリサイタル国内ツアーが明日から始まろうとしています。その間、1週間ほどしかありませんでした。
帰国後に彼と数回会いましたが、元気そのもので、いまだに時差ボケというものを経験したことがないという嘘みたいな話は本当のようです。今回はプログラム後半にカプースチンの『8つの演奏会用エチュード』が初めて加わるほか、ガーシュインの『3つのプレリュード』やサティなどが並べられた珍しいタイプのプログラムだと思います。聴衆の中には、彼がこれほど幅広い守備範囲を持っていたのかと驚かれる人もいるかもしれません。
私が知っている範囲では、カプースチンの『8つのエチュード 作品40』全曲をリサイタルで弾いたという人はまだ多くないと思います。おそらくイタリアのピアニストが1人、それ以外に1~2人くらいのピアニストが世界のどこかで弾いた可能性があるという噂くらいです。とにかくこのような大きなリサイタル・ツアーのプログラムで演奏される機会としては世界で初めてなのではないでしょうか。ピアニストにとっては大きな挑戦です。
よくよく聞くと、彼の今年のスケジュールは本当に凄くて、海外との往復は今年は9回ほどあるようです。しかもそのほぼすべてがヨーロッパかアメリカです。これほど忙しいピアニストも少ないのではないでしょうか。
私は今でも彼と一緒にいると、ヴァン・クライバーン氏やマエストロ・ゲルギエフも言っていましたが、彼は本当に奇跡の人だな、とあらためて思う瞬間が多いです。今回のプログラムの準備などはもう本当に彼にしかできない芸当だと思います。もうプロ意識がすごいというか、その強靭な体力もさることながら、絶対にやり遂げる力みたいなものが凄くて、やはりエネルギーの塊の人だと思います。これは、普通に演奏だけを聴いている人にはちょっとわからない部分だと思いますが、そういう知られざる彼の力がやはり多くの人を感動させているのだと思います。
東京で聴けるのはサントリーホールで再来週ですね。2日連続の2回公演です。
私も楽しみにしています!