日本の音大では一般的に専門実技を重視するのが一般的かもしれませんが、海外ではもう少し幅広い考え方をしているのではないかと感じられました。というのは、入試の時点でもう少し広く音楽全般の知識や技能を求められているような部分があって、それはとても良いことだなと感じるのです。
実は先日までイギリスの音大を受験したい生徒さんがいて、家内のほうがピアノ指導をずっとしていたのですが、イギリスのABRSM(英国王立音楽検定)の試験でグレードを取って大学を受験する必要があるため、半年間くらいはそのための指導が必要になりました。ピアノ実技はもちろん、それに初見演奏とスケール試験、さらに加えてオーラル試験があったり、理論(楽典)の試験もあるのですが、いわゆる「ソルフェージュ」の一部にあたるABRSMのオーラルテストの部分は私がレッスンを担当することにしました。というのは、その中には新曲視唱、カデンツァ、和音の種類、転調の言い当て、曲を1回聴いてその音楽の特徴(テクスチュア、構造、アーティキュレーション、調性、拍子、性格、時代やスタイルなど)を聞き取ってすぐに言葉で説明する、などというカテゴリーがあってあまりに多岐にわたること、それにこのオーラルテストはもちろん受験者は英語で答える必要があるため、レッスンも基本的に英語で行ないました。
日本の音大のために受験指導をするのとは違って、私もいろいろと学ぶことがありました。一番思ったのは、やはり音楽について自分の言葉で具体的に曲の特徴などを説明できる能力を問われるということ。よく海外の先生のレッスンを受けて、その際に先生から何か質問をされても何も答えられない日本の生徒さんは多いのですが、この試験のために勉強しているとそんなことはなくなるだろうなと思いました。その場で一回だけ与えられた曲の演奏を聴いて、その曲がどの時代の曲(四期の)かを判別する。その理由を説明したり、あるいはその曲に特有の要素について気がついたことを自分の言葉で言う。とにかく音楽を聴き取る力とそれを描写する力が同時に養われるという、なかなか良い視点を持ったものだと感じます。
これに加えて、音大受験のためには英語で行われる音楽理論(楽典)の試験もグレードを取らなければなりません。また、イギリスの音大等に留学する場合は基本的にIELTSの英語の試験でも一定の高さのスコアを取る必要があります。世界で認められている英語の試験はいくつかありますが、このIELTSは「読む・書く・聴く・話す」の4つの項目について満遍なく評価されるシステムで、これがなかなか良いと感じます。マークシートだけの英語試験では到底わかりえない「話す」試験を他の項目と同等にきちんと課しているのが重要なことです。私は個人的には、スキルとして英語をきちんとやりたいのであれば、このIELTSの試験のための勉強をするのが実践的な力が一番つくのではないかという気がしています。日本人が苦手とも言える「英語が喋れる力」が絶対に身につきます。結局は英語で話すスキルが必要になりますし、大学に入る以前にも試験でオーラルテストがあります。
もちろん音楽の道に進んでいくには実技が最も大事だとも言えるのですが、外国では楽典や音楽聴取への認識などが日本のシステムとは少し違っていて、この方法だと確かに総合的な音楽の力は早いうちに鍛えられるのではないかと感じました。私たちの生徒さんにはピアニストばかりでなく作曲の方面を目指したい人もいますが、そういう意味ではこういうイギリスのABRSMのような試験は将来とても役に立つスキルが身につくのではないかと思いました。