ショパンの若い頃の作品というのがあります。本当に若い頃、7歳から十代前半くらいまでの作品は、確かにショパンなんだけどどこか物足りないなという感じがすると思います。作曲家も当たり前のことですが成長しながら語法や内容を豊かにしていくわけです。
現代のカプースチンという作曲家については、ジャズのイディオムを取り入れたということで理解されていますが、彼にしてもやはり時間とともに作風が変化しています。実は有名な「8つのエチュード」作品40や「24のプレリュード」作品53あたりの作品は、彼の中ではもう「かなり昔の」作品という認識です。「現在自分が書いているものとは全然別のスタイル」とおそらく思っています。80年代くらいまでは、かなりジャズの形式をそのまま使用したりしていますが、これはおそらくクラシック音楽にそういうものを取り込んだこと自体が珍しかったからなのだと思います。
だから、楽譜を日本で出版する際に作曲家本人に解説と運指を書き込んでもらったわけですが、ある方が「よくそんな過去の作品に手を入れてくれたね」と言っていましたが、本当にその通りだと思います。現在の方が作曲技術も上だし、いつも新しい発想に基づいて書きたい曲を書いているのですから、きっと過去に書いた作品なんて思い出したりするのは嫌なものだろうと思うのです。
もっと以前の偉大な作曲家たちによる音楽でも同じでしょうが、その作曲家の人生のどの時期に作曲されたものかということを理解していることはとても重要だと思います。