[2004年12月21日]

「なんと2つの出版社(全音とA-ram)がまったく同じ作品を出版するなんて、私は困惑してしまいますよ。つい最近ロンドン(の出版社)から受け取った楽譜は作品28、36、40、41、59、そして作品100でした。『バガテル』なんて、マルク=アンドレがその中の2分に満たない曲を1曲録音したからってこの作品を出版する価値なんてあるのだろうか? そもそもが私はこの作品59にそれほど入れ込んではいません。作品108などにはもっと興味がない。作品66は、あなたが1番と3番を入れることに賛成しないのなら私は第2番も入れたくない。でもそれでは何かがおかしい…。
私には例えばまだCD録音されていない『ユーモレスク“作品75』など、もっとうまく書けた作品もあるよ。これを出版する価値がないとでも? あとソナタ第7番もどうして出版しないの? ロンドンでも今のところ出版する気はなさそうだし。
敬具
N. カプースチン」
上のメールは、ちょうどこの時期全音から出版する3、4冊目となる楽譜「ピアノ作品集1」「ピアノ作品集2」への選曲に関して、カプースチン本人の意向を訊いた私のメールへの答えです。膨大な彼のピアノソロの作品の中からどの曲を入れるか、私もかなり迷いました。私としては、やはりよく弾かれるようになるだろうキャッチーな曲を多く入れるべきだと思ったし、上のように例えば『3つの即興曲 作品66』なら(人気が出そうな)第2番だけを「抜粋して出版しても良いですか?」などとカプースチンに伺ったりしました。作曲者に対しては失礼な質問だったかと今では思います。彼としてはもちろん3曲そろって完成した作品なのでまとめて出してほしいという意向でした。第1曲と第3曲は前衛的で無調っぽくて初心者がわかりづらいのではないかと私は考えていました。
ほかにも、カプースチン本人的には「かなり成功した作品」という『ユーモレスク』作品75などは、実際にはメチャクチャ難しい曲なのでまず誰も弾けないだろうと思いました。(その後この曲は全音の第2巻に入れることにしました。) ピアノソナタ第7番なども、まだ彼のピアノソナタでは第2番くらいしか知られていなかった当時としては難解で長大なのでやはり入れませんでした。
そのように、『8つのエチュード』『24のプレリュード』に続く『ピアノ名曲集』みたいなものを考えていた私の狙いと、作曲家本人の意向とはまったく違ったので、全音のこの2冊の選曲にはかなり苦労しました。でも『10のバガテル 作品59』や作品108のパラフレーズなどはこの初期の全音版で出すことができて本当に良かったと思います。実際にそれらの作品はこの楽譜が絶版になった後はかなり長い間ずっと出版されませんでしたから。『10のバガテル』などは1曲1曲にそれぞれ弾きごたえがあって、やはりこれも傑作とみなして良いと思います。