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カプースチンからの手紙[第7回]


[2005年2月16日]

「その「ユモレスク」を弾いてみたら(自分のためだけにですが)、私にはそれとは違う問題が出てきた。曲の最初から最後まで一度も止まらずに弾けることが珍しくなってしまったのだ。それから「ミスタッチ」に関しては、アルトゥール・シュナーベルが冗談で一度こんなことを言っていたよ:ピアニストにとって困った問題は、「正しい」キー(鍵盤)の隣に2つの「間違った」キーが存在することだ。

・・・後文省略」


この時期は、全音から3,4冊目となるカプースチンの「ピアノ作品集1・2」を出版するのに合わせて私が2枚分のCD録音の準備をしているところで、それに収録することになった難曲の一つ『ユモレスク』が難しすぎる、ミスタッチせずに弾き切るなんて無理だ!と私がこぼしたのを受けて書いてくれたカプースチンからのメールです。

実はその『ユモレスク』をカプースチン自身はそれ以前のメールで「私は弾けるよ。暗譜もしてる』と豪語していたのですが、いざ弾いてみたらけっこう難しかったことがわかり、まあ弾けることは弾けるが「稀にしか最初から最後まで止まらずに弾けない!」ということが書いてありました。ただこの時カプースチンは67歳。実際にはこの2年後(70歳になる年)に彼は「カプースチン・リターンズ」というCDをリリースして、そのCDでなんとこの『ユモレスク』を収録(録音)しています。とにかく作曲意欲も演奏技術もまだこの時期には全盛だったことがわかります。その後70代になってまだピアノソナタや室内楽曲、協奏曲などをたくさん作曲しているのです。考えてみればものすごいバイタリティだと思います。


シュナーベルが語ったという言葉も面白いです。「”正しい音”の鍵盤は両隣の”間違った”鍵盤に囲まれている」ということで、もちろん正しい音より間違った音を弾く可能性のほうが高かったら困るわけですが(シュナーベルの言葉は一種のレトリックでしょう)、そう言いたくなるほどミスタッチせずに弾くのが難しい曲もあるということでしょう。カプースチンは上のように、何かを伝える時に歴史上の人物や音楽家などからの引用や比喩などを用いることがよくありました。

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