全音版「カプースチン作品集2」に入っている「“ブラジルの水彩画”によるパラフレーズ」作品118についてです。この曲は大変人気があるようです。この曲は、実は作曲されて比較的早い段階で私が作曲家から頂いた自筆譜と全音の楽譜を編集する際に使った自筆譜に微妙な違いがありました。そのことについては楽譜の解説にはいちいち書いてありませんので、熱心な学習者たちのために補足すべき点をいくつか書き出してみたいと思います。
・第7~8小節 リズムは当初は少し凝ったものでした(もとのヴァージョンと下に譜を載せてあります)が、結果的に分かりやすい(規則的な)リズムに書き換えられました。私は最初の方が気に入っているので、ずっとそちらで弾いていました。(最近は楽譜どおりに弾いています。)
・第65小節 左手の3拍目のバス音はG(ソ)となっていますがこれは誤植で、F(ファ)が正しい音です。その2小節前から4小節の間ずっとバスは“ファ”のままです。
・第114~116小節 ここは実は最初はもう少し単純な形(リズム)で書かれていましたが、前後の関係から「ちょっとリズムに精彩を欠くかな?」という感はありました。作曲家もあとになって同じように感じたらしく、この3小節にVar.1、Var.2と二つのOssiaを加えて送ってくれましたが、結果的に最後の最後になって一番複雑で弾きにくいVar.2を決定譜として採用してほしいということになり、それをそのまま楽譜に組み込むことになって現在の形になりました。この箇所は私の録音でも反映することができましたが、実はその訂正譜が送られてきたのは録音日の5日ほど前でありました。(私は、この難所を変更して弾くための練習期間として3~4日間しか残されていなかったので、汗をかきかき苦労して練習しました。)
・第127小節 左手第3拍目の“G”は、もとは“H-G”(下からシ-ソ)の和音となっていました。全音版の底本では“シ”が省かれていました。(私は和音の方が気に入っています。)
・第155小節 右手第4拍目のB(シのフラット)には、最初の自筆譜ではフラットがなく、シのナチュラルでした。ここはおそらく作曲家はシのフラットのほうを求めていたかと思われます。
ほかにもカプースチン自身がこれよりさらに前の段階で細かく手を入れた部分はいくつかありますが、そこまで遡って説明する必要はないかと思います。全音の楽譜編集に際しては、まだ知られてもいない曲に関してあまり煩雑な情報をたくさん書いても仕方がないと判断し、このような部分については公開しませんでしたが、今後熱心な弾き手が多数現れることを考慮して、編集作業における細かいやり取りについても少しここに書いてみました。