以前から少し気になっていたジャズピアニスト、ブラッド・メルドーのトリオを昨晩東京オペラシティタケミツメモリアルホールへ聴きに行ってきました。彼がどんなピアノを弾くのか実は聴いたことがなかったのですが、あまり先入観を持ちたくはなかったので、事前に深く知ることを避けていました。そして昨日いきなり会場へ足を運びました。
というわけで、初めて聴いた印象は、まあ正直に言うと自分の求めているような音楽にピタッと合ったものではありませんでした。どちらかと言えば、全体を通して聴いてもあまり感銘を受けなかったのですが、それは彼の好む語法だけの問題ではないように思います。確かにすごく現代的(現代音楽的)で、新しく付け加えている独自のものも素晴らしいとは思うのですけれども…。キャッチコピーにあった“もの言う左手”に、少々期待していた私は(笑)、残念ながら昨日はその真髄を聴くことはできませんでした。このコピーで思い出しましたが、昨年のミシェル・カミロに与えられていた“消える手”のコピーのほうは、100%文句なしに納得したのでした。それにしても、昨年のカミロ(&上原ひろみとのデュオ)は本当に感動しました。
さて昨日のコンサートでは、プログラムは配られなかったのですが、メルドーはあと1曲を残したところでマイクを持ってお客さんに向かって喋ってくれました。それまでに演奏した曲について何の曲のアレンジだったのかを一つ一つ紹介してくれました。あまり完璧には聞き取れなかったのです(曲名を知らないということもある)が、では最後に、ということで「次の曲は、レノン&マッカートニーの”She’s leaving home”のnew arrangementです」と言ったので、「よし、これならわかりやすいな」と思ったのですが、昨日のそのヴァージョンはテーマの原型がまったく見えないほどで、メルドー流にメロディに意表を突く音を混ぜたり和声の使い方も異様で、曲の展開も読めない、確かに陳腐なところは一つもないけれども、そのセンスはすぐには理解できないものでした。私のセンスのほうがきっと時代についていけずに遅れているのかもしれませんが。キュービズム時代のピカソの絵を見ている感覚に近いものがありました。(帰宅後、ネット上の視聴でいくつかの彼の過去のビートルズナンバーをもとにしたアレンジを聴いたところ、それは同曲を含めもっと理解しやすいものに感じました。)
その曲の演奏が終わって、さらになんとそのあと5曲もアンコールを演奏したので(約45分超)、彼の作曲家としてのスタイルがよく見えてきました。共演者のジェフ・バラードというドラマーは面白かったですし、メルドーにはピアノがメインというよりも例えばトリオだったら3人で一つの音楽を作り上げているという感覚が強いのかもしれません。きっとオリジナリティも強いのだと思います。ピアノのテクニックを見せつけるようなところはないし、また決して見事というほどでもないように一見思われるのですが、もっと深いところで聴衆の共感を得ているのかもしれませんね。実際、昨夜のファンの反応はすごいものでした。どちらかと言うとそれにビックリしてしまいましたが…。才能は意外に奥深くてまだ隠された彼の良さを私は発見していないのかもしれません。今後も見届けていきたいと思っています。