このたび全音楽譜出版社から刊行された2冊の楽譜(以下“新版”)では、旧ロシア版に多く見られた誤植は訂正され、作曲家自身によって他の部分にも細かく手が入れられました。
この新版で大幅な改訂がなされましたが、この11月にも再リリースされる作曲家本人の録音と楽譜に書かれた音がまだ違っているという部分を発見される方もいらっしゃるかと思います。その例として、下の2点を挙げておきます。これは、楽譜の解説には書かれていないことですので、特に熱心な奏者の方のためにここで説明しておきたいと思います。
1. 「8つの演奏会用エチュード」 第2番「夢」より
第132小節の右手の分散和音は、3、6、12拍目がEs音であるにもかかわらず作曲者自身はすべて同じ音(すなわちFes)で弾いています。アムランの録音においても、おそらく作曲家自身の録音に影響を受けたのかもしれませんが、やはり楽譜通りに弾いていない(しかしなぜか12拍目だけはEs音)ためさらに混乱してしまいます。カプースチン自身はすべてを承知している上で、楽譜が正しいとしています。
2. 「24のプレリュード」 第12番より
第93~94小節の右手と左手間の音域は、オクターヴと6度が交互に奏されるように書いてありますが、作曲者自身はここのパッセージをすべてオクターヴのユニゾンで弾いています。これについても問い合わせたところ、すぐに自身が所持している3枚のCDを聴いてこの部分について点検してくださいました。結果は、唯一オズボーンのみが正しく弾いていて、自分ともう1人のオランダの女性ピアニストはなんとユニゾンで弾いているではないか!とびっくりされていました。もちろん、楽譜が正しいということです。
このように、作曲者自身の自作自演の録音に楽譜とは違う音やリズムが出現するというケースはままあります。あくまでも楽譜の方を重んじるという姿勢が大切です。