実は昨年11月に、ドイツの楽譜出版社ショット社の創業250周年の大々的なイベントが日本でも行われるはずでした。私もその際にカプースチンの楽譜の普及をメインにショット本社の人たちと一緒に東京や大阪などをとレクチャーや演奏を交えて回る予定でした。でも、昨年は新型コロナが流行って海外からのスタッフが日本に来れなくなって断念。本当に残念なことでした。
ショット本社とのカプースチン作品の楽譜の共同編集作業もずっと止まっておりましたが、ようやく先月頃から再開しました。現在、2000年以降に作曲されたカプースチンのピアノ小品をまた次々に出版するようで、さっそくマインツから私に校正依頼のメールがありました。カプースチンの、特にピアノ曲に関係した作品を出版する際には必ず私に連絡があるので嬉しく思っています。ショットとの仕事が再開です。
あらためて未出版の作品などに目を通したりしていたのですが、例えば先日頼まれた『ジンジャーブレッドマン』Op.111などは、送ってきた編集譜データは、私が持っている自筆譜とは違って楽譜に運指が入っていたり音などもかなり増えていたので、「カプースチンがあとで手を入れたのだろうか??」と焦ったのですが、なんと日本で出版された楽譜を底本にしているとのこと。なんだ、それなら私が2008年頃にカプースチン本人と一緒に共同作業した楽譜ではないか。それならカプースチンの赤入れの楽譜がどこかに見つかるはずだと思って家中を探したのですが、まだ見つかっていません。紛失した可能性もあります。そうこうしていると、なんとこの曲のもう1種類の自筆譜が見つかり、そちらには運指が出版譜の半分くらいは入れられていたりしました。つまり自筆譜が2種類あって、その上に日本版を編集した時にカプースチンが手を加えた情報もあるはずです。
作曲家というものは、出版する際に突然に思い立って音を加えたりする(笑)ことが多々あります。ショパンなども違う出版社から同じ曲を出す際に手を加えたものもあると言われており異稿が存在する曲がありますが、カプースチンも同じで、すでに現時点で数種類のバージョンが存在する曲もあります。でも、ショットから出すからには最新のバージョンを反映させる必要があるので、作曲家本人との編集作業の経緯がわかる資料が見つからなかった場合は、現出版譜と2種類の自筆譜を見比べて校正するしかなさそうですね。
こんな感じでいつも苦労してカプースチンの楽譜を校訂していますが、やはりこれから演奏する人にとっては楽譜の情報がすべてですから、後世に正しい情報を残さなければいけないと責任感を持ってやっております。
まだカプースチンを弾くピアノファンは世界には少ないと思いますし、演奏される曲も限られていますが、黙々と需要の少ない作品を含んだ出版を250年以上も続けているショット社には頭が下がります。
少しでも多く売れてほしいです☆