最近、ピアノ科の学生も大学3年(4年ではなく!)になるとそろそろ就活を始めるというケースをよく聞きます。もちろん、ピアノ科(「ピアノ演奏家コース」も含めて)出身者すべてがプロのピアニストになるわけではないでしょう。だから、就職ということを考えるのもわかります。ただ、以前と比べて何かが明らかに変わってきているという感じを受けます。
大学3年くらいになると、周りがそうだから、なんとなく焦って自分もそうしなくてはいけない気持ちになるのかもしれませんが、なにがなんでも卒業後すぐに職を得なければいけないという焦りを持っている人が多くなったような気がします。
これは現在の世相も関係しているでしょう。日本の経済が低迷しているこの状況をすぐに救うことはできないかもしれませんが、日本人全体の考え方が「守り」の姿勢に入っているというか、見えない危機感のようなものをなんとなく持っている人が多いように思います。そんな中、音楽を職業にして食べていくなどは「高望み」でしかない、という考え方を持つのもわかる気はします。
ただ、音楽で食べていくことはモーツァルトやベートーヴェンの時代でも難しかったことです。そりゃ稼ぐだけを考えるならば、最初から音楽などを専門的にやっていこうなどとは考えないのであって、そうした勉強を続けているということは、まったく違う目的と価値観を持ってやっているわけです。だから、もちろん現実を見ることは大事だけれども、あまり周りに振り回されるのは良くないと思います。自分が心底やりたいと思うことは何か、それを追求していくべきだし、やはり自分が喜びを持って続けていけること、努力していけることの方向に道を選ぶべきではないかと思います。
せっかくピアノ科に入ったのなら、やはりやれるところまで一生懸命がんばってみて、最終的にピアノや音楽を通して身につけたスキルや経験、あるいは知識というものを武器にして世の中に出ていくこと、もちろんそれを仕事にしていき、音楽を通して世の中に何をしていきたいのかを考えて、そのための行動を一つずつ具体化していくことが大事だと思います。
もちろん現実は厳しいこともあると思いますが、それはきっとどんな職業を持っている人でもそうだと思います。だとすれば、自分が長くやってきた音楽で、そういうことを実現していこうと思えることは、とても恵まれたことだし、幸せなことだと思うのです。先のことをまったく考えないのも困りますが、学生の時は自分が今やっていることについて必死に取り組まなくてはいけないと思います。