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カプースチンあれこれ


日比谷のベヒシュタインのホールで予定しているカプースチンのコンサートがいよいよ2日後に迫りました。チケット予約もほぼ満席となったということで、現在キャンセル待ちに切り替わったようです。皆さまどうもありがとうございます。
先日も書きましたが、カプースチンが今ではいろんなところで聴かれるようになり、最近入ってきた情報では辻井伸行君が次の日本ツアーを待たずにもうあちこちで『8つの演奏会用エチュード』を弾いて話題をさらっているようです。

カプースチンはもちろんクラシック寄りの演奏家にも人気があるし、またジャズに親しんできた人たちにも人気があります。作曲や即興演奏に興味があるという人にも気になる作曲家ではあるでしょう。カプースチンの音楽は楽譜に記譜されるクラシック音楽のカテゴリーに入りますが、特に1970年代後半から90年あたりまでに書かれた作品には、まさにジャズの即興演奏を思わせる音型がふんだんに入っていて、こういう作品を聴くと「これはジャズか?!」と思う人が多いのだと思います。もちろん90年代以降に書かれた作品にもジャズ書法は入っていますが、もっと精緻で濃密なものに発展していっているのでとてもジャズなどとは言えなくなっていきます。これがカプースチンのスタイルです。彼の音楽はジャズっぽく聴こえたり、あるいは無調のような響きを使ったりして実験的に書かれたような作品でも、それはすべてよく考え抜かれた音であるということです。

ところで、当のカプースチン自身は即興演奏ができたかと言うと、もちろん彼は即興演奏が得意だったと言います。ジャズを演奏するピアニストも当時のロシアにたくさんいましたが、即興演奏ができる人とそうではない人がいたという認識を彼は持っていたようです。彼はモスクワ音楽院を出たにもかかわらず、自分で鍛え上げてジャズの世界で行われているような即興演奏もできたので、例えば70年代後半に彼が映画音楽のためのオーケストラでピアニストとして採用される際にもそのことが有利に働いたのではないか、と本人は思っていたようです。ただ、そのオーケストラではもちろんジャズばかりではなく映画のためのあらゆる種類の音楽が必要だったので、オールマイティーでプロフェッショナルな演奏家が必要とされていたということです。

カプースチンの音楽を演奏するために即興演奏の能力は特に必要ありませんが、ジャズのそういうスタイルはいくらか知っておくべきかもしれません。即興は作曲の能力と関係がありますから、もちろんセンスや個人の才能による部分もあるかもしれませんし、訓練で身につけることができる人もいるかと思います。辻井伸行君などは、小さい頃から作曲を勉強していたわけではありませんが、他の音楽家たちと何か即興的なセッションをする場面になると、ピアノに向かってすぐに対応したりできる能力があることはありました。そのようなシーンがテレビ番組でときどき紹介されたりしていましたから知っている人も多いかもしれません。

カプースチンの音楽には、そのようなポピュラーミュージックのくつろいだ雰囲気がクラシック音楽のコンテクストの中に入っているのが人気の秘密かもしれません。それでいて、ピアノに限らず弦・管楽器のための「ソナタ」などきちんとした構成を持って作曲するのを好むので、彼には人を楽しませるエンタテインメント性と真面目な性格のような対照的な二つのものを合わせ持っているのだと思います。人間としてのカプースチンはとても誠実で優しい心を持った人でした。

明後日の演奏会では、複数の演奏者によるカプースチンの多彩な曲を聴いていただきつつ、また新たな視点でカプースチンについてたくさん語ってみたいと思っています!

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