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カプースチンからの手紙[第2回]


[2004年4月16日]

「親愛なるマサヒロ!
早速『プレリュード』の第12番を3つの録音で聴き直してみたよ。自分の演奏と、S. オズボーン、それからオランダのピアニストのE. ヴォロンツォバ(彼女はロシア人ですが)の録音だ。で、何がわかったか? オズボーンだけが正しく弾いていて、私と彼女はなぜかそこをユニゾンで弾いていた! 基本的にはすべて楽譜どおりに弾いてほしい。つまりそこはそれぞれ#G-Aと#F-Gで六度音程にするのが正しい。

ごきげんよう
N. カプースチン」


上のメールは、『24のプレリュード』の楽譜を校正していて、93-94小節目のある箇所で自筆譜には右手とのハーモニーが六度音程になっているのに、カプースチン自身のCD録音ではどうしてもユニゾン(八度音程)に聞こえるので、楽譜の左手の音が間違っているのではないですか?と私が質問したメールへの回答です。

驚くべきことに、これは楽譜のほうが正しく、作曲者本人がなぜか楽譜とは違う音で録音していたということでした。なので、その時に出版される楽譜でも自筆譜のままにして修正しませんでした。こんな訳で、作曲者本人の録音と楽譜が一致していない場合、楽譜のほうを信じてほしい、というのがカプースチン本人の意向でした。本人に訊いてみなければ本当にわからないものですね。

こんなふうに、作曲家本人にしかわからないことが楽譜の校正時にはたくさんありました。その中にはメールで残っているものだけでも貴重な言葉がたくさんあるので、どんどん紹介していきたいと思っています。また「カプースチン語録」と呼んでも良いような楽しい言葉もこれから飛び出すと思います。ぜひ楽しみにして読んでいただければと思います。

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