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カプースチンからの手紙[第10回]


[2005年12月27日](前半部分)
「親愛なるマサヒロ!
ロンドンから興味深い知らせが届いたのであなたに転送しようと思う。
でもその前にまずは手紙の本文を書こう。

皆からは「こんな作品を書いたらどうか、あんな作品を書いたらどうか」といろいろ言われるが、私はいつも何と答えて良いかわからないんだ。とにかく、ピアノソナタ第13番と作品121、122については自分の意志で書きたいと思うものを書いた。その後の作品123~127もそうだが、これらは誰かから頼まれて作曲されたものではない。

あなたに伝えていたかどうか忘れたが、私の一番新しい作品『Fantasia quasi Sonata』(ピアノソナタ第15番)は、あのデイヴ・ブルーベックその人と友人であるというアメリカのピアニスト、ジョン・サーモンから委嘱されて作曲したものだ。このソナタの楽譜はもうすでにノース・カロライナ州グリーンズボロの彼の元に届いている。でも、今のところこの作品についてまだ彼からの意見は何ももらっていない。というのも、ちょうど今月彼の父親が亡くなったのだ(ブルーベックが85歳になったちょうどその日に!)。ただ、彼(ジョン・サーモン)の最初のメールでもうすでに、このソナタは完成してから1年間は誰にも楽譜を渡さないようにということを言われている。

・・・[続く]


前回紹介したカプースチンからの手紙(メール)の後に何通もやり取りはありました。私の新しい録音となったオール・カプースチン作品のCD2枚を2005年8月にモスクワのカプースチンに送って、聴いてくれて絶賛してくださった手紙とかもありました。まあ恥ずかしいですし、自分にとっては貴重なものであっても他の人にとっては意味がないでしょう。意外にそういうメールにこそカプースチンの人間性というか優しさとかいろいろ感じるものは強くあるわけなのですが、このブログではあくまでも公にして良いと思われる内容や、多くの人が興味を持ってくれそうなものをピックアップしていこうと思います。

上のメールは少々長いので、まずは前半部分だけ抜き出してみました。
カプースチンファンにとってはなこんな貴重と思われるような内容まで、私にいつもメールでたくさん書いてくれていました。この時期は、ちょうどこのピアノソナタ第15番が完成した頃で、このソナタが委嘱されて作曲された経緯が書いてあります。その後、このピアニスト、ジョン・サーモン氏はこのソナタをちゃんとCD録音しました。

カプースチンは、いつも新作ができると少し遅れてほとんどすべての作品をコピーして日本の私の自宅まで送ってくれていました。今のように電子データで送ることなどがまだできない時代だったので、国際郵便で送ってくれていたのです。何かのついでの時にまとめて数作品を送ってくれることが多かったです。もう涙が出るくらい有り難いことです。ただ、委嘱作品についてはこのメールにもあるように、原則的に曲が完成して1年間は外に出してはいけない、というルールを作っていたので、私もすぐに受け取ることができなかった作品がけっこうあったのを覚えています。

ちなみに、上の手紙の最初に書いてあった「ロンドンからの興味深い知らせ」というのは、ロンドンでカプースチン作品を含む室内楽のコンサートが企画されて、そのチラシのデータやロンドンでのカプースチン普及の活動状況などが送られてきました。その際にロンドンで「カプースチン協会」なるものが発足されて、ちょうどメンバーを募集し始めたということでした。(ただ、その後この組織がどうなったのかはあまり詳しく知りません。)

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